馬の世話は経験がそれなりにあるがこんな馬はいなかった。絶対に顔を正面から見せない。目や歯も検めたいが、ままならない。まともに顔を見ないまま旅立ちの時がやってきた。馬がこちらを見る。初めて目が合う。鼻先を撫でる。歌声のような美しい嘶き。(117字)
2021年11月30日火曜日
2021年11月29日月曜日
地下一階 #ノベルバー day29
ここの地下鉄は階層に分かれている。地下三階の地下鉄は繁華街を結ぶ。地下二階は住宅街を巡る。地下一階の地下鉄は「緊急用」と呼ばれている。が、市井の人はその実態をよく知らない。救急・警察・災害、色々噂はある中「亡者を運ぶ」が一番有力だ。(116字)
2021年11月28日日曜日
隙間 #ノベルバー day28
横着で名高い人はドアを開けるのも億劫で、閉め忘れたドア、閉まりかけのドアからスルリと出入りする。隙間すり抜けの技術の向上が極まり、ついに閉まったドアからも出入りするようになった。盗人扱いされ、常に監視される身分になったが、横着は治らない。(119字)
2021年11月27日土曜日
ほろほろ #ノベルバー day27
「ほろほろ、ほろほろ」流暢に話しているつもりだったがそれしか言えなかった。鳩とは言葉が通じて一日中鳩と遊んでいた。今は「ほろほろ」以外にも話せるようになったけれど、友達は鳩のほうが多い。最近は異国の鳩とも交流すべく「ホロホロ」を練習中。(118字)
2021年11月26日金曜日
対価 #ノベルバー day26
私は小さな絵を描く。あなたはおいしい珈琲を淹れる。貧乏画学生だった頃からの習慣だ。私の絵がどうしようもなく好きなのだとあなたは言うが、自分の絵が増殖する喫茶店は日に日に居心地が悪くなる。「お金を払わせて」と言っても聞き入れてもらえない。(118字)
2021年11月25日木曜日
ステッキ #ノベルバー day25
老人から「ステッキが勝手に伸び縮みして困っている」と相談を受けた。ステッキの言い分は「私は歩行補助用の杖ではない」 そこでスキップを勧めると、老人は「足が痛いのに」と当初は嫌がっていたが、今ではすっかりスキップに慣れたようだ。(112字)
2021年11月24日水曜日
月虹 #ノベルバー day24
「月虹を潜ってやってきたものは、虹を渡って帰る」という札を付けてやってきた大量の異星人は手のひらに乗るほど小さく、毛深くて、よく食べ、人懐っこい。この島では月虹は珍しいものではないが、こんな地球外生物を召喚したのは初めてだ。(112字)
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