箱を開けると、手紙が入っているはずだった。出せなかったラブレターが二十四通。仕舞いこんだまま、十年が過ぎた。もう、潮時だ。破いて捨ててしまおう。私はあのころには想像していなかったような生活をしていて、おそらく相手も同じだろう。たとえ出会っても、二人の人生は交わることはないのだ。
箱の中には自分のものではない筆跡の手紙が入っていた。若かったあのころ、欲しくて欲しくて堪らなかった、彼女からの手紙だと気が付くまで、何秒掛ったのか、何分掛ったのか、自分でもわからない。切手は貼られておらず、開封もしていない。この手紙もまた、出さなかったはずの手紙なのかーー
私が出さなかったはずのラブレターが、彼女の元にあるとしたら
2018年5月9日水曜日
2018年5月6日日曜日
箱を開けると 4
強い風の吹く夕方だ。
どんどん薄暗くなっていく駅前で、白い箱が風に吹かれて空中に踊っていた。
風に乗って電信柱にぶつかり、屋根に落ちて転がり、ふいに浮き上がり、また落ちかける。
空飛ぶ箱に気が付く人がひとり、またひとりと増え、駅前には髪をなびかせながら箱をポカンと見上げている人でいっぱいになった。
ついに、オレンジ色の街灯に勢いよくぶつかって(それは風のせいではなく、意志があるようにさえ見えた)、箱は開いた。
スーツの男に降り注ぐ紙吹雪と、「おめでとう」の垂れ幕。駅前で起こる、拍手喝采。「おめでとう」の理由はわからないままに。
どんどん薄暗くなっていく駅前で、白い箱が風に吹かれて空中に踊っていた。
風に乗って電信柱にぶつかり、屋根に落ちて転がり、ふいに浮き上がり、また落ちかける。
空飛ぶ箱に気が付く人がひとり、またひとりと増え、駅前には髪をなびかせながら箱をポカンと見上げている人でいっぱいになった。
ついに、オレンジ色の街灯に勢いよくぶつかって(それは風のせいではなく、意志があるようにさえ見えた)、箱は開いた。
スーツの男に降り注ぐ紙吹雪と、「おめでとう」の垂れ幕。駅前で起こる、拍手喝采。「おめでとう」の理由はわからないままに。
2018年4月16日月曜日
2018年4月9日月曜日
2018年4月8日日曜日
2018年3月8日木曜日
夢 浴槽からの客人
我が家の訪問者は浴槽から現れる。インターホンが鳴ると私は風呂場に行き、風呂蓋を外す。
「お届けものです」
荷物を受け取ると、風呂蓋を戻す。どういう仕組みになっているのかわからない。家の者は玄関から出入りするのだが、客はどうしても浴槽に現れてしまう。
ピンポン
来客の予定も、宅配物が届く予定もなかったが、風呂の蓋を取った。髪の長い人が浴槽に現れて、「あら、ごめんなさい。間違えました」という。
「いえいえ、間違いは誰にでもあることです」
私は最大限に感じの良い笑顔で応える。
風呂蓋を戻すために浴槽に目をやると、多量の髪の毛がこびりついていた。
「お届けものです」
荷物を受け取ると、風呂蓋を戻す。どういう仕組みになっているのかわからない。家の者は玄関から出入りするのだが、客はどうしても浴槽に現れてしまう。
ピンポン
来客の予定も、宅配物が届く予定もなかったが、風呂の蓋を取った。髪の長い人が浴槽に現れて、「あら、ごめんなさい。間違えました」という。
「いえいえ、間違いは誰にでもあることです」
私は最大限に感じの良い笑顔で応える。
風呂蓋を戻すために浴槽に目をやると、多量の髪の毛がこびりついていた。
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