よちよち歩きの人々と、よろよろ歩きの人々が、朝のお散歩中に遭遇した模様。
2014年10月26日日曜日
フィドル・パブ
「酒が飲みたいって? 生憎、ここにはパブなんて一軒もないよ」
赤い顔をしたおじさんは言った。おじさんは一体どこで飲んできたんだ?
「そんな顔をするな、ここにパブはない。だが、呼ぶことはできる」
おじさんは着古したジャケットのポケットから、小さな小さなバイオリンを取り出した。
「フィドルだ」
マッチ棒みたいな弓を器用に指先で摘み、おじさんはフィドルとやらを演奏し始めた。それは思いのほか大きな音で、夕闇の田舎町に響いた。
呆気にとられていると、いつのまにやらアコーディオンの音色まで聞こえてくる。どんどん楽器が増えていく。
風が吹く。なんだかよい香りだ。
「ほら、そろそろ来るぞ、よーく見てな」
そう言われて、思わずパチクリ瞬きすると、そこはもう賑やかなパブの中なのだった。手にはウイスキーの入ったグラス。
おじさんはお客たちの合間を歩きながら、陽気にフィドルを弾いている。ミニチュアのフィドルじゃなくて、普通の大きさだ。
ウイスキーを一口飲み、顔を上げると、おじさんが近くまで来ていた。
「ほら、パブがやって来ただろう?」
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アイリッシュパブのほら話投稿作
松本楽志賞 受賞
2014年10月24日金曜日
十月二十四日 どんぐりひろい
よちよち歩きの人々が、我先にとどんぐりを拾っている。
みな真剣である。
小さな人々に囲まれたどんぐりの木もまた、真剣である。
どんぐりを落とす。次々落とす。
コトン、と頭にどんぐりが落ちて、人々は大喜びである。
秋である。
2014年10月23日木曜日
十月二十三日 落ち葉
図書館の椅子に腰掛けようとしたら、足元に落ち葉が落ちていた。赤く色付いた葉。
今しがた立ち去った人を目で追いかけると、そうと知らなければ気がつかないほど控えめに、
はらり……はらり……と、落ち葉をひとひらずつ落としながら歩いていた。
姿勢のよい、白髪交じりのご婦人であった。
2014年10月16日木曜日
十月十六日 昼日中、住宅街の光景
道端にしゃがみこんでカップラーメンを作る若い女が二人。
それを道の向かいから眺める杖を持った老婆は、植え込みの段に座って休憩中。
両者の間を、十八人の一歳児がよちよちと闊歩していった。
2014年10月12日日曜日
2014年10月11日土曜日
十月十一日 川沿いを歩く
川沿いの道をズンズン歩いた。景色もろくすっぽ見ずに、歩いた。
なぜそんなに脇目もふらずに歩くのだ、と小走りのウサギに問われたが、自分でもわからない。
でも、川沿いの道でなければならいのだ、今日は。
脇目はふらなかったが、鼻は秋の川の匂いを敏感に嗅ぎ分けていたから。
歩いて歩いて、お腹が空いた。焼き鳥屋で乾杯。