甘い匂いに誘われて通りを歩いていると、蛇が絡まる絵が施された黒い面を被った男が、露店を開いていた。
「いらっしゃい」
高い鼻の面からくぐもった低い声がする。
「箱から出てきたのが青い玉なら夢をあげましょう。赤い玉なら、闇をあげましょう」
面の中から覗く男の目が金色に光る。
差し出された箱は、男の面と同じ黒地に蛇の這う絵。丸く開いた穴に手を入れると、生暖かい。
底に触れて探っても、玉など一つもなかった。男に問い質そうと口を開き掛け。た途端、手のひらに飛び込む球体。
恐る恐る引き上げると、私の右手は鮮やかな赤い玉を握っていた。
「おめでとう。闇を差し上げます」
煙草の煙でも吐き出すように、男の口から黒い靄が出てきた。少しも逃すまいと、口を開けて吸い込む。どうしてこんな不気味なものを吸い込もうとするのだ、と頭の片隅で考えるが、やめられない。
闇を受け取ってからというもの、休日になると面を付け、箱を抱えて通りに出る。もちろん、尖った鼻の黒い面には蛇の絵。
「いらっしゃい。赤い玉なら
(431字)
2009年8月29日土曜日
DEAR MY SOLDIER
盾になることが君を守る唯一の方法だと思い込んでいた。
ズタズタに斬られて、それで君が無事なら、僕の行いは完全に正しいと信じていた。
僕が君を守ろうとすればするほど、君は涙を流す。青い涙をガラスのペンに浸して、僕へのラブレターを綴る。
君はラブレターを紙飛行機にして、戦場にいる僕に寄越すけれど、その手紙を僕は読むことができない。そこにはただ涙の跡があるだけ。
ついに僕はラブレターを読む。君の血液で綴られた文字を読む。
「あなたが傷つけば私も傷つくと、いつになったらわかってくれるの? ――あなたは「私の愛する人」を何よりも大事にしてください」
あぁ、僕は若過ぎた。君の涙の意味をちっともわかっちゃいなかった。おまけに僕は、傷ついた僕に陶酔していたんだ。
あれから、どれだけ年月が経っただろう。僕も君もずいぶん年を取った。あの手紙を書くために君が傷つけた右の太股の内側には、まだ跡が残ったまま。
(389字)
ズタズタに斬られて、それで君が無事なら、僕の行いは完全に正しいと信じていた。
僕が君を守ろうとすればするほど、君は涙を流す。青い涙をガラスのペンに浸して、僕へのラブレターを綴る。
君はラブレターを紙飛行機にして、戦場にいる僕に寄越すけれど、その手紙を僕は読むことができない。そこにはただ涙の跡があるだけ。
ついに僕はラブレターを読む。君の血液で綴られた文字を読む。
「あなたが傷つけば私も傷つくと、いつになったらわかってくれるの? ――あなたは「私の愛する人」を何よりも大事にしてください」
あぁ、僕は若過ぎた。君の涙の意味をちっともわかっちゃいなかった。おまけに僕は、傷ついた僕に陶酔していたんだ。
あれから、どれだけ年月が経っただろう。僕も君もずいぶん年を取った。あの手紙を書くために君が傷つけた右の太股の内側には、まだ跡が残ったまま。
(389字)
2009年8月27日木曜日
2009年8月26日水曜日
八月二十五日 ウサギ乞いし池袋
ウサギ追う列車の中に晩夏の風
赤信号、憂国の男、スピーカー
人込みを避けて通るはホテル街
ウサギなく牛の姿に後ろ髪
万華鏡、小宇宙にウサギを見る
サーモン・チーズ、エビ・アボカド、優柔不断
民社党? 思いがけなく時間旅行
兎にも角にもウサギ捕獲失敗
(116字)
赤信号、憂国の男、スピーカー
人込みを避けて通るはホテル街
ウサギなく牛の姿に後ろ髪
万華鏡、小宇宙にウサギを見る
サーモン・チーズ、エビ・アボカド、優柔不断
民社党? 思いがけなく時間旅行
兎にも角にもウサギ捕獲失敗
(116字)
2009年8月21日金曜日
2009年8月20日木曜日
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