2007年10月31日水曜日

十月三十一日 赤いボールペン

赤いボールペンは、張り切りすぎるので困る。
ウサギの目より赤い線で、原稿用紙いっぱいのハートマークが描かれたら、ドキドキするしかないじゃないか。(72字)

2007年10月29日月曜日

赤裸々

 桃割れの娘が一糸纏わぬ姿で満開の紫陽花の傍らに立っていた。娘は見事な黒髪なのに碧眼で、私はその容姿に強く惹き付けられた。
 紫陽花はさっきまでの雨で濡れている。娘はにわかに紫陽花の花を枝から折り、身体に擦り付けはじめた。雨粒は花から娘に移り、若い肌の上で丸い露となる。あの露を舐めたら娘はどんな顔をするだろう。少しずつ近寄っていく。
 娘はひとつ、またひとつ、と紫陽花の花を折り、身体中を花で撫でる。肌は露でますます輝き、足元は青紫の花に埋もれていく。ついに私は娘の手を遮りひとつ花を折ると、彼女に差し出した。私に気づいた娘は目を見開き、顔をみるみる上気させた。いつのまにか私も素裸になっていた。
 娘の肌は火照っているのに、その肌を濡らす露を舌で掬うと、氷かと思うほど冷たかった。白昼夢にしては、あまりにも痛い。

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500文字の心臓 第71回タイトル競作投稿作
△2

2007年10月28日日曜日

十月二十八日 似て非なる人

あの人に歩き方が似てるってだけで、後を付けてみた。
知らない町へ向かうオレンジ色の電車に乗った。
電車の中で新聞を読む横顔を盗み見る。新聞を睨む目が、段々と赤くなる。
知らない風景の駅で降りた。ウサギが改札口にいた。もういいや。どんぐりを拾って帰ろう。

2007年10月27日土曜日

転んだビアマグ

コロンビアの男は咽喉がからからで、ビールをくれと騒ぐ。
ところが、やってきたのはちっこい銅のビアマグに入った熱々ビール。
どうすりゃいいんだ、とコロンビアの男。 


There was an Old Man of Columbia,
Who was thirsty, and called out for some beer;
But they brought it quite hot,
In a small copper pot,
Which disgusted that man of Columbia.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』

2007年10月26日金曜日

十月二十五日 眼差しに問う

ふと顔を上げると、窓に映るキミと目があった。
キミがなかなか目を逸らさないから「コラ」と言えなくなった。
一体いつからこっちを見てた?

2007年10月25日木曜日

仏頂面もほどほどに

ブダの年寄りの振る舞いは無礼極まりない。
仏の顔も三度まで、ついに木槌でぶたれてぶっ倒れた。

There was an Old Person of Buda,
Whose conduct grew ruder and ruder;
Till at last, with a hammer,
They silenced his clamour,
By smashing that Person of Buda.

エドワード・リア「ナンセンスの絵本」

2007年10月24日水曜日

十月二十四日 それぞれの事情

ノラ猫を一日に二匹も見たのに、なんだか二匹とも急ぎ足で写真も撮れなかった。
と愚痴をこぼしたら、ウサギが「猫には猫の事情がある。ウサギにはウサギの事情がある」と言った。
ウサギの事情って何さ。いつもタイミング悪い時に現れて邪魔ばかりするウサギの事情を考えてみたら、鬱々としてきたので止めた。