2007年9月28日金曜日

九月二十八日 お風呂に入ろう

ハウライトのリングは、まるで借りてきた猫のようにそわそわしていた。わたしも少し緊張していたのかもしれない。
家に帰って、お風呂に一緒に入ったら、ずいぶん馴染んだ。
「なんで連れて帰ったの?」とリングが聞くから
「そりゃあ、かわいいからに決まってる」と答えたら、ハウライトは白くなって照れた。

2007年9月26日水曜日

捩レ飴細工

 弦の震えは大きな震動となり、夕暮れを揺らす。
 だらに、と法師の口から飴が溢れ出た。琵琶の調べに合わせ、飴は伸び縮む。捩れよじれる。法師の額に汗が噴き出す。
 飴は姿を変え続ける。胎児から般若へ。般若から船へ。船から馬へ。
 馬がいななくように仰け反ったところで、法師は撥を止めた。夕闇に静けさが戻り、熱気がすうと引いていく。ぼさっ。冷えて固まった馬が法師の口から落ちた。

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500文字の心臓 第70回タイトル競作投稿作
○2△2

「捩」は琵琶の撥の意。「レ」を撥の動きに見立てた。
そこに空也上人像のイメージを借りて。
飴の形は、性行為を象徴しているのだけども、これはわかってもらう意図はほとんどなく、むしろあからさまにならないように。ただ「絶頂で止める」感は、ちょっと感じてほしいかな、とも思ったり。(笑)
「だらに」は陀羅尼、「ぼさっ」は菩薩です。

2007年9月25日火曜日

九月二十五日 お月見

白玉を作ったのでウサギも食べにくるだろうと思っていたが、一向に現れる気配がない。
月を見たら、ウサギはぱたぱたと立ち働いていた。
そういえば、臨時のアルバイトに出ると言っていたっけ。

2007年9月24日月曜日

九月二十四日 召し上がれ

腕を舐めてみる。しょっぱい。
そういえば、ずいぶん長い間、温泉に浸かっていたからなぁ。
塩分が強い泉質のおかげで、わたしの身体は下ごしらえ十分だ。
あとはじっくり煮るか、こんがり焼くか。
残念なのは、自分で食べられないことだ。もっとも、あまりおいしそうだとは思わないけれど。

2007年9月23日日曜日

九月二十三日 ビップが逝く

ビップがほほえむ。お辞儀をする。その白い顔と細く長い手足に、わたしは戸惑う。いや、違う。彼の道化た姿ではなく、ひどく哀しみを背追っていることに、わたしは戸惑う。

なぜビップはほほえむのだろう。そんなに哀しいのに。
じっと見つめていたら、ビップはわたしの哀しみに気づいたようだ。わたしもほほえむ。ビップはもっとほほえむ。

一度はかえってきたビップ。今度は、さようなら。

……マルセル・マルソーに

2007年9月20日木曜日

シーツは議事録

モルダヴィアの年寄りは、猛烈なモラリストだ。
海千山千の彼は、テーブルの上で眠る。
モルダヴィアの年寄りは、一晩で議題を押しつぶす。

There was an Old Man of Moldavia,
Who had the most curious behaviour;
For while he was able,
He slept on a table.
That funny Old Man of Moldavia.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫

2007年9月18日火曜日

九月十八日 靄の向こうから

ドライアイスはすらすらと白い二酸化炭素を出し続けていた。
この白い靄から何か出てこないかしら、例えばごちそう、例えば気になるあいつ、例えばカッコいい自転車。
と思っていたら、靄から現れたのは、ウサギだった。白いからよく紛れること。