「あんちゃん、あれっく、あそこにいるよ。」
アレックこと、阿礼は街路樹を背もたれにしてしゃがみこんでいた。
黒い服と黒い帽子。傍らには百科事典と虫眼鏡。
「こんにちは、アレック」
主水くんが声をかけると阿礼はいつもと同じ調子で言った。
「各々方、よくぞ参った。各々方に小生の知識を分け与えて進ぜよう」
「では、ルーシーについてを教えて下さい」
「ルーシーについてはこのデラックス百科事典の9753頁に記されておる。されども、小生に百科事典は必要ない」
ならば、そこの分厚い本は何だ、などという野暮な質問はしてはならない
2003年11月30日日曜日
2003年11月29日土曜日
目を輝かせた主水くんのこと
「博士、時間です」
ションヴォリ氏はくちびるを突きだした。
「もっとおってもいいではないか」
「いけません」
「今日はアレックが出てるよ、モンド」
摩耶の言葉を聞いて主水くんは目を輝かせた。
アレックというのは唯一主水くんの時間を狂わせることができる人物らしい。
「では、アレックのところに行かなくてはいかんな」
とションヴォリ氏も言った。
「また来週もくるよ、マヤ」
「待ってるからね、レオナルド」
抱きしめ合う二人の周りを掃部くんはぐるぐる回った。
ションヴォリ氏はくちびるを突きだした。
「もっとおってもいいではないか」
「いけません」
「今日はアレックが出てるよ、モンド」
摩耶の言葉を聞いて主水くんは目を輝かせた。
アレックというのは唯一主水くんの時間を狂わせることができる人物らしい。
「では、アレックのところに行かなくてはいかんな」
とションヴォリ氏も言った。
「また来週もくるよ、マヤ」
「待ってるからね、レオナルド」
抱きしめ合う二人の周りを掃部くんはぐるぐる回った。
2003年11月28日金曜日
摩耶の歌声のこと
摩耶の歌声を発見したのはションヴォリ氏、その人だった。
まだションヴォリ氏のガールフレンドが摩耶ではなく、彼女の母だったころのことである。
摩耶はいつもいつもパクパク口を動かしているのだった。
ションヴォリ氏は摩耶に問うた。
「マヤ、なにをしているんだ?」
「おうたをうたってるの」
この問答は何度も繰り返された。
だが、ションヴォリ氏には何も聞こえない。
「マヤ。マヤの歌、聞こえないよ。もっとよく聞こえるように大きな声で歌っておくれ」
摩耶は悲しそうな顔をした。
ションヴォリ氏は耳に手をやり、摩耶の口元に近づけた。
「ああ、少し聞こえてきたよ。摩耶の声は小さいね」
ションヴォリ氏は耳に持ってきていた手をはずした。
すると、摩耶の歌は全く聞こえなくなったのだ。
ションヴォリ氏は摩耶に歌い続けるように言い、自分の手を耳に近づけたり遠ざけたり、何度も試した。
「ナムサン!この子の歌声は聞く者が耳を塞いで初めて聞こえるのだ」
そしてションヴォリ氏は摩耶を暗く静かな場所にある、
つまり一番繁盛していない喫茶店に連れていき舞台に立たせることにしたのだった。
まだションヴォリ氏のガールフレンドが摩耶ではなく、彼女の母だったころのことである。
摩耶はいつもいつもパクパク口を動かしているのだった。
ションヴォリ氏は摩耶に問うた。
「マヤ、なにをしているんだ?」
「おうたをうたってるの」
この問答は何度も繰り返された。
だが、ションヴォリ氏には何も聞こえない。
「マヤ。マヤの歌、聞こえないよ。もっとよく聞こえるように大きな声で歌っておくれ」
摩耶は悲しそうな顔をした。
ションヴォリ氏は耳に手をやり、摩耶の口元に近づけた。
「ああ、少し聞こえてきたよ。摩耶の声は小さいね」
ションヴォリ氏は耳に持ってきていた手をはずした。
すると、摩耶の歌は全く聞こえなくなったのだ。
ションヴォリ氏は摩耶に歌い続けるように言い、自分の手を耳に近づけたり遠ざけたり、何度も試した。
「ナムサン!この子の歌声は聞く者が耳を塞いで初めて聞こえるのだ」
そしてションヴォリ氏は摩耶を暗く静かな場所にある、
つまり一番繁盛していない喫茶店に連れていき舞台に立たせることにしたのだった。
2003年11月26日水曜日
お客たちが一斉にしたこと
薄暗い舞台に現れた摩耶に気づいた店内はしんと静まり返った。
お客が一斉皆耳に手を当てて息を殺しているのだ。
もちろん主水くんも耳を塞いだ。
掃部くんは変な動物の皮を頭からすっぽりかぶっているから耳を塞ぐ必要はない。
ションヴォリ氏はコルクで作った耳栓をした。
摩耶は唯一無二の声で歌い始める。
摩耶はこの喫茶店の、いや、この街の歌姫だ。
その声を目当てに店に来るものも多い。
昼も夜も街の人たちのために摩耶は舞台に立つ。
ただし、どういうわけか耳を塞がなければその声は聞こえないのだ。
お客が一斉皆耳に手を当てて息を殺しているのだ。
もちろん主水くんも耳を塞いだ。
掃部くんは変な動物の皮を頭からすっぽりかぶっているから耳を塞ぐ必要はない。
ションヴォリ氏はコルクで作った耳栓をした。
摩耶は唯一無二の声で歌い始める。
摩耶はこの喫茶店の、いや、この街の歌姫だ。
その声を目当てに店に来るものも多い。
昼も夜も街の人たちのために摩耶は舞台に立つ。
ただし、どういうわけか耳を塞がなければその声は聞こえないのだ。
2003年11月25日火曜日
ションヴォリ氏のガールフレンドのこと
摩耶はションヴォリ氏のガールフレンドだ。
摩耶の母も、そのまた母もションヴォリ氏のガールフレンドだった。
そのまた母もガールフレンドだったような気がするがションヴォリ氏はよく覚えていない。
だからと言ってションヴォリ氏と摩耶に血のつながりはない。
ションヴォリ氏は摩耶に会うために毎週この小さくて暗い喫茶店に通う。
掃部くんはパフェやケーキを食べるために通う。
主水くんは、二人が通うので通う。
摩耶の母も、そのまた母もションヴォリ氏のガールフレンドだった。
そのまた母もガールフレンドだったような気がするがションヴォリ氏はよく覚えていない。
だからと言ってションヴォリ氏と摩耶に血のつながりはない。
ションヴォリ氏は摩耶に会うために毎週この小さくて暗い喫茶店に通う。
掃部くんはパフェやケーキを食べるために通う。
主水くんは、二人が通うので通う。
2003年11月24日月曜日
ションヴォリ氏に抱きついた少女のこと
その店のドアを開けるやいなや、ションヴォリ氏は叫んだ。
「マヤ!」
摩耶と呼ばれた少女は舞台を降り、三人に駆け寄った。
「レオナルド!」
摩耶はションヴォリ氏に抱きついた。
スラリと背の高い摩耶の胸が、ションヴォリ氏の顔に押しつけられた。
店中の視線が二人に注がれる。
「モンドとカモンもよく来たね」
今度は掃部くんを抱き上げて頭を撫でる。
「毎週来てるけどね」
主水くんは呟いた。照れ隠しである。
「わたし、舞台に戻らなくちゃ。好きなだけ飲んでて。カモン、パフェもあるからね」
言われるまでもなく掃部くんはパフェに取りついている。
パタパタと舞台に戻るドレス姿の摩耶をションヴォリ氏は名残惜しそうに見つめた。
「マヤ!」
摩耶と呼ばれた少女は舞台を降り、三人に駆け寄った。
「レオナルド!」
摩耶はションヴォリ氏に抱きついた。
スラリと背の高い摩耶の胸が、ションヴォリ氏の顔に押しつけられた。
店中の視線が二人に注がれる。
「モンドとカモンもよく来たね」
今度は掃部くんを抱き上げて頭を撫でる。
「毎週来てるけどね」
主水くんは呟いた。照れ隠しである。
「わたし、舞台に戻らなくちゃ。好きなだけ飲んでて。カモン、パフェもあるからね」
言われるまでもなく掃部くんはパフェに取りついている。
パタパタと舞台に戻るドレス姿の摩耶をションヴォリ氏は名残惜しそうに見つめた。
2003年11月21日金曜日
あっけなく終わったドライブのこと
突然ぴたりと車は動きを止めた。
「ドライブ終了」
ションヴォリ氏は木箱を降りた。
続いて主水くんも降り、掃部くんを抱きかかえて降ろした。
掃部くんは木箱の後ろで眠ってしまった羅文と四文をつまみあげ、ポケットに入れる。
「さて参りましょう。」
主水くんは歩き出した。
「今日はまぁまぁでしたね、博士」
「ほ。この前は門までたどりつかなかったからなァ」
「らもん、しもん、すごくがんばった」
木箱はほったらかしである。
なにしろ家から50メートルも離れていないのだから。
さて、歩き始めて19分34秒後(家を出てからは53分26秒後)
繁華街に到着した三人はまっさきに喫茶店に向かった。
「ドライブ終了」
ションヴォリ氏は木箱を降りた。
続いて主水くんも降り、掃部くんを抱きかかえて降ろした。
掃部くんは木箱の後ろで眠ってしまった羅文と四文をつまみあげ、ポケットに入れる。
「さて参りましょう。」
主水くんは歩き出した。
「今日はまぁまぁでしたね、博士」
「ほ。この前は門までたどりつかなかったからなァ」
「らもん、しもん、すごくがんばった」
木箱はほったらかしである。
なにしろ家から50メートルも離れていないのだから。
さて、歩き始めて19分34秒後(家を出てからは53分26秒後)
繁華街に到着した三人はまっさきに喫茶店に向かった。
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