子供の頃に住んでいた町には広場があった。小さな時計台があり、フィドル弾きが鳩や猫を相手に演奏していた。古い郵便ポストがポツンと淋しそうにしていたから、よく手紙を出した。書ける文字は少しだけ。切手も貼っていない。その手紙が60年を経て届いた。孫が喜び、返事を書くんだと張り切っている。(140字)
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予選通過
子供の頃に住んでいた町には広場があった。小さな時計台があり、フィドル弾きが鳩や猫を相手に演奏していた。古い郵便ポストがポツンと淋しそうにしていたから、よく手紙を出した。書ける文字は少しだけ。切手も貼っていない。その手紙が60年を経て届いた。孫が喜び、返事を書くんだと張り切っている。(140字)
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予選通過
往来で文字通り大風呂敷を広げている人がいる。警官に注意されても気にする様子はない。口上を述べるが異国の言葉なのか、聞き取れない。最後に風呂敷に飛び込み、吸い込まれた。大風呂敷は軽やかに宙に舞い、電線に絡み付き停電が起きた。大風呂敷に消えた人を案ずる者が一人でもいればよいのだが。(139字)
パイナップルの飛行性能を人類はやっと活かせるようになった。若者は自由に乗りこなし、老人もパイナップルを抱きしめて飛び回り始めた。抱かれたパイナップルは照れくさいのかトゲトゲしくぶっきら棒な飛びっぷりになるが、その分おいしくなることを酸いも甘いも噛み分けた老人たちはよく心得ている。(140字)
初めてマンゴスチンを食べた日、大切な物をマンゴスチンの殻に仕舞うと長持ちすると先生は言った。一番仲の良い人形に今日からここがあなたのベッドだと話すと、少量の魔法で殻を大きくし、器用に身体を畳みマンゴスチンの殻の中で眠るようになった。首の向きも脚の角度も私には真似できない美しさ。(139字)