橋の下に看板を拾いに行く。風に飛ばされた看板の吹き溜まりがあるのだ。飛ばされた看板はなぜか小さい。かつては堂々としていたであろう看板を摘み上げてはポケットに突っ込む。金属製の看板には要注意だ。手を切る。猫に引っ掻かれたのとそっくりの傷だ。(119字)
2023年4月7日金曜日
2023年4月4日火曜日
#春の星々140字小説コンテスト「明」投稿作
日が長くなってきた。日課の夕方散歩も自然と距離が伸びる。商店街を二つ抜け、右へ曲がり、左へ曲がり、もはや知らぬ街である。西日がやけに明るい。影が伸び縮みしている。はしゃいでいるようだ。よくない兆候。私はすぐ影を逃してしまうのだ。おや、なかなか日が沈まないぞ。影がスキップを始めた。(140字)
2023年3月28日火曜日
雨が降ってるので宣伝
巧妙に隠れているつもりの宇宙船が春の生温かい雨によってじんわりと姿を露わされ、焦っている。穴に潜り、不可視化性能を最大にしてみたが、どうにも隠れられない。 近隣住民はシャイな宇宙船に気遣い「UFOのいない町」と横断幕を商店街に掲げた。(116字)
2023年3月25日土曜日
雨が降ってるので宣伝
「雨天開店」の貼り紙がある店に行ってみることにした。気怠い身体を引き摺って到着したのは蛙の店長と蝸牛のバイトが仲良く働く喫茶店であった。ホットレモネードを飲みながら本を読む。店内はどこもかしこも濡れていて本はみるみるうちに変容する。(116字)
2023年3月18日土曜日
雨が降ってるので宣伝
咲き始めの桜が冷たく濡れる。雨粒を振り落としたいが、強く揺れれば花も落ちてしまう。毎朝、こちらを見上げる人間たちの様子を思い浮かべ、そっと震えるだけにする。一片だけ花びらが落ち、疲れた立て看板に貼りついた。(103字)
2023年3月16日木曜日
雨が降ってるので宣伝
ポストにチラシが入っていたが、配達員が急な雨にチラシを濡らしたらしい。蛍光色のインクは滲んで何も読めない。広げて乾かしたら滲んだままの文字が蠢き出した。チカチカと喧しい。近所の怪しげな老人に預ける。きっと長い髭が解読するだろう。(114字)
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