2022年11月7日月曜日

#11月の星々 「保」投稿作

極小カメレオンが揺れる葉の上でポーズを取る。完璧な保護色に満足しているが、葉が妙に不安定なのが気にいらない。 コノハウオは擽ったい。水流がおかしいと思っているが、それはカメレオンが動くせいだ。 カメレオンが水に落ちたのか、コノハウオが空中に飛び出したのか。見ていたのはお月さまだけ。(139字)

2022年11月2日水曜日

雲を返す

出展者には箱に詰められた雲が配られる。客は展示物に自由に触れることができるが、乱れた展示を直すには箱の雲を一掴み空へ返さねばならない。整える度に雨の確率は上がる。展示即売会の帰りに大雨はつらい。入場者にも恨まれることだろう。乱れた作品アベコベな値札。出展者の苦悩が会場に満ちる。(139字)

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発熱中に見た夢

2022年10月26日水曜日

#10月の星々 「着」投稿作

 「友達が月に行くんだ。宇宙飛行士になったんだよ」というと、月の人は苦い物を食べたような顔になった。「着陸の様子は生配信するってさ。月を歩く感触が楽しみだって」月の人は砂でも噛んだような顔をする。「月の感触は僕のほうがよく知っているんだけどね」頬を撫でると月の人はそっと息を吐いた。(140字)


2022年10月24日月曜日

#10月の星々 「着」投稿作

貴方は蝋燭だ。仏壇用の、箱入りの、ただの白い蝋燭だ。だが、貴方には火が灯らなかった。ライター、マッチ、隣の蝋燭からも着火を試みられ、その度に失敗し、箱に戻された。一本だけ箱に残され、引き出しの中で何十年も寂しく過ごしている。そんな貴方に千載一遇、今この家は放火犯に狙われている。(139字)

2022年10月22日土曜日

#10月の星々 「着」投稿作

立ち寄った古い喫茶店に黒電話があった。娘は初めて見るという。着信表示がないのは「怖っ!」だそうだ。「案外、誰からの電話かわかるものだよ」というと疑いの目。「お客様宛てに懐かしい人から掛かってくることがありますよ」と店主が言った途端、ベルが鳴り響く。娘が「おじいちゃん?」と呟いた。(140字)

2022年10月12日水曜日

#10月の星々 「着」投稿作

 「よくご存知ね、浴衣をリメイクしたのよ」と、隣に座った御婦人に声を掛けられた。いや、先に声が出たのは私だ。綺麗なスカートに思わず「有松……」と呟いたのだ。祖母が有松絞りをよく着ていたこと、サイズが違い着られないことを話すと御婦人はウインクした。翌月、仕立て直された浴衣が届いた。(139字)

2022年10月5日水曜日

#10月の星々 「着」投稿作

ドローンが郵便配達するようになって久しい。それに対抗するかのように、手紙を紙飛行機にして飛ばす者が現れ始めた。紙飛行機に微小のエンジンだのAIだの取り付けるようだが、詳しくは知らない。時々、間違ったポストに着陸した恋文飛行機のせいで、ちょっとしたいざこざが生まれるのも当世風である。(141字)