2022年7月5日火曜日

線香花火  #文披31題 day5

「そっくりだ」と、あなたは線香花火と私を交互に見やる。私の浴衣の乱菊の柄と線香花火が似ていると言って聞かないのだ。「ほら、見てて……ピークが過ぎた瞬間が……ね?」
すると浴衣の菊がチカチカと燃え始めた。私は吐息と共に浴衣を脱ぐ。(113字)

2022年7月4日月曜日

滴る  #文披31題 day4

市民プールの夜専門監視員である私に、ぼやけている子、光っている子、触れない子、浮いている子たちが「遊ぼ!」と集まる。
東の空が白くなった。水から上がり、まとめ髪をおろす。私の髪からぽたぽた落ちる水滴を「甘い甘い」と啜りに寄ってくる。(115字)

2022年7月3日日曜日

願譚 198

七夕までに、壮大な願い事を書くに相応しい文房四宝を集める旅に出たい。(34字)

謎  #文披31題 day3

寄せて返す波の音をずっと聞いていると、なんだか言葉に聞こえてくると恋人が言った。「今なんて言ってる?」と訊くと、聞いたこともないような発音で何か呟いた。驚いて顔を見たが、夕日に照らされて表情がわからない。(102字)

2022年7月2日土曜日

金魚  #文披31題 day2

去年の夏、弟が掬った小さな金魚は、私のコードレスのイヤホンに棲むことにしたらしい。右耳。ビートに合わせて尾びれを震わせるから、ゆらゆら。右耳だけ、ゆらゆら。ときどき酔ってしまうので、弟に「今年も夏祭りに行こうね」と誘った。(111字)

2022年7月1日金曜日

#7月の星々 「放」投稿作

願い事を書いた短冊を夜空に放った。どうせひらひら落ちてくるんだろうと思ったが豈図らんや、ぐんぐん上昇していく。慌てたのは短冊が吊るされるはずだった笹の枝。葉を一斉に逆立てて、短冊を追い掛け目にも留まらぬ速さで飛んでいった。「ロケットだ!」と覚えたての字で短冊を書いた人がはしゃぐ。(140字)

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予選通過

黄昏  #文披31題 day1

西日があまりに暑いので太陽に氷水を差し出したら、あっという間に飲み干した。が、やっぱり暑いままなので、ならばさっさと沈んでもらおうとリヤカーに乗せて運ぶことにした。太陽を乗せて西に向かっていると、何故だかしんみりして、少し涙が出た。(116字)