2020年11月7日土曜日

秋は夕暮れ #novelber day7

 夕日の中を鴉が寝所へ飛び急ぐ。二羽、三羽……二十羽、三十羽……二百羽、三百羽……。鴉たちの寝所は、近所の人間は誰も寄り付こうとしない不気味な古い屋敷である。(78字)

2020年11月6日金曜日

双子 #novelber day6

 人形を作った。作ったのは一体だったが、「よし、出来上がり」と言った途端、二体に増えた。二体は本当にそっくりだけど、作る時に失敗した箇所をよくよく見てみると僅かに違いがある。もともと双子だったのだろう。(100字)

2020年11月5日木曜日

チェス #novelber day5

「ここでお待ちください」と通されたのは市松模様の床の、広い部屋。指示があるまで動くなと言われて退屈なので、その格子を数えてみたら、どうやら自分がチェスの駒になるらしいことに気が付いた。ポーン。(96字)

2020年11月4日水曜日

琴 #novelber day4

 「何度張り替えても弦が切れるから、もういらない」と捨てられた琴だが、弦がなくとも「春の海」だけは奏でられるので、正月には仕事が入ると思っている。(72字)

2020年11月3日火曜日

落葉 #novelber day3

  もう一枚残らず葉を落としてしまったのに、心地のよい冷たい風が吹くと、葉を落としたくてうずうずしてしまう銀杏の大木。(57字)

2020年11月2日月曜日

吐息 #novelber day2

七色の息を吐く人と接吻したら、青息吐息だけ色が出るようになってしまった。(36字)


2020年11月1日日曜日

門 #novelber day1  

 ある邸宅の門扉に花が一輪、括り付けられている。あくる日、一輪増えている。毎日、一輪ずつ花は増える。花は萎れる気配もなく日に日に門扉は花で埋まっていく。
 もうこれ以上どこにも余地はなく、門扉は完全に花で埋め尽くされたと見えた翌日、一斉に花は枯れた。(122字)