箱の中には、色とりどりの小さな折り鶴がぎっしり詰まっていた。
一羽摘み出して、手のひらに乗せると、羽ばたき出した。
羽ばたきが上手くなってきたところで、息を吹きかけると、窓の外へ飛んで行った。
箱の中の折り鶴たちもソワソワとし始めたので、一羽ずつ手のひらに乗せ、羽ばたくのを待ち、息を吹きかけ、飛び立たせた。
たくさんの折り鶴が順番待ちしているので、二羽ずつでもいいかと思ったけれど、どうしても一羽ずつでないといけないようだったので、延々と繰り返した。
最後の鶴を見送った頃には、月が出ていた。
2018年5月15日火曜日
箱を開けると6
箱を開けると、手紙が入っているはずだった。出せなかったラブレターが二十四通。仕舞いこんだまま、十年が過ぎた。もう、潮時だ。破いて捨ててしまおう。私はあのころには想像していなかったような生活をしていて、おそらく相手も同じだろう。たとえ出会っても、二人の人生は交わることはないのだ。
箱の中には自分のものではない筆跡の手紙が入っていた。若かったあのころ、欲しくて欲しくて堪らなかった、彼女からの手紙だと気が付くまで、何秒掛ったのか、何分掛ったのか、自分でもわからない。切手は貼られておらず、開封もしていない。この手紙もまた、出さなかったはずの手紙なのかーー
私が出さなかったはずのラブレターが、彼女の元にあるとしたら
箱の中には自分のものではない筆跡の手紙が入っていた。若かったあのころ、欲しくて欲しくて堪らなかった、彼女からの手紙だと気が付くまで、何秒掛ったのか、何分掛ったのか、自分でもわからない。切手は貼られておらず、開封もしていない。この手紙もまた、出さなかったはずの手紙なのかーー
私が出さなかったはずのラブレターが、彼女の元にあるとしたら
2018年5月9日水曜日
2018年5月6日日曜日
箱を開けると 4
強い風の吹く夕方だ。
どんどん薄暗くなっていく駅前で、白い箱が風に吹かれて空中に踊っていた。
風に乗って電信柱にぶつかり、屋根に落ちて転がり、ふいに浮き上がり、また落ちかける。
空飛ぶ箱に気が付く人がひとり、またひとりと増え、駅前には髪をなびかせながら箱をポカンと見上げている人でいっぱいになった。
ついに、オレンジ色の街灯に勢いよくぶつかって(それは風のせいではなく、意志があるようにさえ見えた)、箱は開いた。
スーツの男に降り注ぐ紙吹雪と、「おめでとう」の垂れ幕。駅前で起こる、拍手喝采。「おめでとう」の理由はわからないままに。
どんどん薄暗くなっていく駅前で、白い箱が風に吹かれて空中に踊っていた。
風に乗って電信柱にぶつかり、屋根に落ちて転がり、ふいに浮き上がり、また落ちかける。
空飛ぶ箱に気が付く人がひとり、またひとりと増え、駅前には髪をなびかせながら箱をポカンと見上げている人でいっぱいになった。
ついに、オレンジ色の街灯に勢いよくぶつかって(それは風のせいではなく、意志があるようにさえ見えた)、箱は開いた。
スーツの男に降り注ぐ紙吹雪と、「おめでとう」の垂れ幕。駅前で起こる、拍手喝采。「おめでとう」の理由はわからないままに。
2018年4月16日月曜日
2018年4月9日月曜日
登録:
投稿 (Atom)