箱を開けると、造花に埋もれて人形が横たわっていた。
棺だ。
そう思ったら、人形が目を開けたので、放り出した。
人形は転がるふりをして、壁際に行儀よく座った。
箱はぐちゃぐちゃになった。簡単に潰れるような箱には感じなかったのだが。
敷き詰められた造花も散らばった。
こんなに不気味なのに、箱に閉じ込めることができなくなった。どうしたらいいのだ。
睨みつけると、人形は項垂れ、そして首を落とした。
2018年5月6日日曜日
箱を開けると 4
強い風の吹く夕方だ。
どんどん薄暗くなっていく駅前で、白い箱が風に吹かれて空中に踊っていた。
風に乗って電信柱にぶつかり、屋根に落ちて転がり、ふいに浮き上がり、また落ちかける。
空飛ぶ箱に気が付く人がひとり、またひとりと増え、駅前には髪をなびかせながら箱をポカンと見上げている人でいっぱいになった。
ついに、オレンジ色の街灯に勢いよくぶつかって(それは風のせいではなく、意志があるようにさえ見えた)、箱は開いた。
スーツの男に降り注ぐ紙吹雪と、「おめでとう」の垂れ幕。駅前で起こる、拍手喝采。「おめでとう」の理由はわからないままに。
どんどん薄暗くなっていく駅前で、白い箱が風に吹かれて空中に踊っていた。
風に乗って電信柱にぶつかり、屋根に落ちて転がり、ふいに浮き上がり、また落ちかける。
空飛ぶ箱に気が付く人がひとり、またひとりと増え、駅前には髪をなびかせながら箱をポカンと見上げている人でいっぱいになった。
ついに、オレンジ色の街灯に勢いよくぶつかって(それは風のせいではなく、意志があるようにさえ見えた)、箱は開いた。
スーツの男に降り注ぐ紙吹雪と、「おめでとう」の垂れ幕。駅前で起こる、拍手喝采。「おめでとう」の理由はわからないままに。
2018年4月16日月曜日
2018年4月9日月曜日
2018年4月8日日曜日
2018年3月8日木曜日
夢 浴槽からの客人
我が家の訪問者は浴槽から現れる。インターホンが鳴ると私は風呂場に行き、風呂蓋を外す。
「お届けものです」
荷物を受け取ると、風呂蓋を戻す。どういう仕組みになっているのかわからない。家の者は玄関から出入りするのだが、客はどうしても浴槽に現れてしまう。
ピンポン
来客の予定も、宅配物が届く予定もなかったが、風呂の蓋を取った。髪の長い人が浴槽に現れて、「あら、ごめんなさい。間違えました」という。
「いえいえ、間違いは誰にでもあることです」
私は最大限に感じの良い笑顔で応える。
風呂蓋を戻すために浴槽に目をやると、多量の髪の毛がこびりついていた。
「お届けものです」
荷物を受け取ると、風呂蓋を戻す。どういう仕組みになっているのかわからない。家の者は玄関から出入りするのだが、客はどうしても浴槽に現れてしまう。
ピンポン
来客の予定も、宅配物が届く予定もなかったが、風呂の蓋を取った。髪の長い人が浴槽に現れて、「あら、ごめんなさい。間違えました」という。
「いえいえ、間違いは誰にでもあることです」
私は最大限に感じの良い笑顔で応える。
風呂蓋を戻すために浴槽に目をやると、多量の髪の毛がこびりついていた。
2018年3月1日木曜日
豆本の世界10
豆本は男の汚れた背広のポケットに長いこと居た。かつては書店の小さな棚に居たのだが、男の手によってポケットに入れられたのだ。男はおそらく書店に支払いをしていない。つまり、豆本は盗まれたのだった。
豆本はすぐに男から忘れられた。ポケットに手が入ってくることすらなかった。豆本の周りには埃や糸くずが増えるばかりで、背広は一度も洗濯屋に持ち込まれることもなかった。
それは突然の出来事だった。男が背広を脱ぎ、乱暴に椅子の背に掛けた。その拍子に、豆本は外へ転がり落ちたのだ。幾らかの埃や糸くずとともに。
しばらく人の足を眺めていたが、ふいに持ち上げられた。小さな手だった。豆本はその手を「丁度よい」と感じた。
そして、小さな手によって豆本は初めて頁を捲られた。気恥ずかしくもあったが、歓びが勝った。あどけない声が豆本を読み上げる。物語が始まる。
豆本はすぐに男から忘れられた。ポケットに手が入ってくることすらなかった。豆本の周りには埃や糸くずが増えるばかりで、背広は一度も洗濯屋に持ち込まれることもなかった。
それは突然の出来事だった。男が背広を脱ぎ、乱暴に椅子の背に掛けた。その拍子に、豆本は外へ転がり落ちたのだ。幾らかの埃や糸くずとともに。
しばらく人の足を眺めていたが、ふいに持ち上げられた。小さな手だった。豆本はその手を「丁度よい」と感じた。
そして、小さな手によって豆本は初めて頁を捲られた。気恥ずかしくもあったが、歓びが勝った。あどけない声が豆本を読み上げる。物語が始まる。
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