様々な水音が聞こえる。蛇口から流れ出る水。川のせせらぎ。桶で絹を濯ぐ。雷雨。
どれもこれも水の音だ。
湯船に浸かりながら感慨に耽っていると、ウサギがザッパーンと勢いよく出てきた。
台無しだ。
サーモンピンク色にはおいしいのとおいしくないのがある。
ウサギはそれを瞬時に判別する。「匂いでも嗅ぐの?」と尋ねると、「耳でわかる」という。
サーモンピンクのTシャツ、サーモンピンクのストール、サーモンピンクの枕カバー、耳でちょんちょんと触っては「おいしくない」という。
本当においしいサーモンピンクは、そう簡単には見つからないのだ。
休日の賑やかな家電店、店員の呼び声はいささかやかましい。
やかましい? ちょっと違う、けたたましいと言ったほうがいい。
すべての呼び声は人の声ではない。ずいぶん性能がよいが、電子音だ。
家電店は電気宣伝鳥の巣になってしまったようだ。
冷蔵庫も電子レンジも諦めて、外に出た。お腹が痛くならないうちに。
『アド・バード』椎名誠 が好きです。