「あっかんべー」の声に振り返ると、小さな男の子が舌を出していた。
負けじとおもいっきり「あっかんべー」としてやったら、男の子はキャッキャと喜んだ。
それ以来、あらゆるものが「あっかんべー」をせがむので困っている。
昨日は蓑虫に、今日は電信柱に「あっかんべー」を披露した。
異星人が訪ねてきた。本人がそういうのだから異星人ということにする。
「私の星の者は、地球人の未来を予見することができるのだ」
それはそれは。
「おまえの未来は、少々複雑で予見が難しい。特殊な地球人だな、おまえ」
平凡なサラリーマンのつもりなのだが、異星人に「特殊」呼ばわりされてしまった。
「そういうわけで、おまえの未来を解く必要がある。未来は己で解くがよい」
異星人は何やら色とりどりのガラス球が幾つか付いた糸のかたまりを差し出した。
仕方なしに糸を解きにかかる。細い糸で、扱いにくい。癇癪を起こしかけると「切れるとおまえの命があぶない」などと脅かす。
糸を解く間、異星人は勝手知ったる様子でお茶を飲んだり、雑誌をめくったりしていた。
ようやく解いた糸のかたまり、最後に手に残ったのは青いガラス球の付いた糸だった。
「これがおまえの未来だ。すっきりしただろう」
異星人は、青いガラス球の糸を右のポケットに、他の糸をまたぐちゃぐちゃと丸めて左のポケットに押し込んだ。
結局、どんな未来かは教えてもらえなかった。それよりも、他の糸……赤や紫や黄色のガラス球たちの未来がなんだったのか気になって仕方がない。
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SFファン交流会出張編投稿作
乗っていた船が難破したのは、いつのことだったか。
船長は、最後まで船に残り、その船長を慕っていた僕も船に残った。
船長に、別れ際浮いていた何か(もはやそれが何かもわからなかった)を渡したことまでは覚えていて、それから僕は海底人になった。
山育ちのくせに、海への憧れが異常に強いことは、両親も訝っていたとはいえ、水中で生きられる身体だとは、もちろん知らなかった。
海底人になってからしばらくは、空気を吸っていないことに焦りを感じて海面に出てみたりもしたけれど、今は不用意に海面に出るようなことはしない。船に見つかったりしたら大事だからね。
海底では、ふかふかとやわらかい場所を探して、そこを家にした。暮らし始めてまもなく、人骨を見つけた。以前にも僕と同じような人がいたと思うと、ワクワクしたし自信も湧いてきた。ここを家とするのは間違いじゃないんだってね。
大きな海藻を身体に巻き付けて眠る。眠れない時は、ヒトデに話しかける。あれは案外おしゃべりで、聞き飽きない。