2010年9月15日水曜日

明日のデート

大切な指輪を失ってしまった。
飼い犬に訊いてみると「蟻が運んで行った」。
蟻の巣に「指輪を返して」と囁いた。
蟻は「甘い匂いがしたのに、食べられないから、捨てた。多分、蜘蛛が持っていったよ」。
町中の蜘蛛の巣を捜した。ようやく見つけたのはマツダさんの家の門扉だった。蜘蛛の巣に、指輪が輝いていた。
「蜘蛛、私の指輪を返して」
「代わりにこれよりも、もっと綺麗でもっとピカピカしたものをくれたら、返してやる」
私は恋人に相談した。「蜘蛛が指輪を返してくれないの」
「それじゃあ、もう一度蜘蛛に返してってお願いしにいこう」
というわけで、明日、私は恋人と手をつないでマツダさんちの門扉に行く。
ポケットにはビー玉と王冠とパチンコ玉。蜘蛛はどれを気に入るのかしら。
とても楽しみ。

2010年9月14日火曜日

IT'S NOTHING ELSE

夜道を歩く。両側はブロック塀で、アスファルトの道路には「止まれ」も書かれていないから、ただ歩く。街灯はない。
夜空を見上げる。月は出ていない。
ポケットの中の星が光るから、どうにか足元が見える。いくら歩いてもどこにも辿りつかない。
ただ星だけがあるから、歩き続ける。

新しいコンテンツを作りました。毎度の通り、ブログだけど。
瓢箪堂紙字引
自分のための資料です。

2010年9月10日金曜日

ある晩の出来事

星たちが眩しくて目が覚めた。
今夜はどうしても眠りたいのだ。黒い布を星たちの上に被せて、ベッドに戻る。

闇が怖いと、星たちが泣く。

2010年9月8日水曜日

月光鬼語

満月の夜、「月夜が見たい」と机の上の星たちが騒ぐので、網に入れて散歩に出た。
何故だか街灯がことごとく消えていたが、明るい満月と大喜びの星が目一杯に輝くので、足元に不安はなく、むしろ眩しく感じたくらいだ。
しばらく歩くと「鬼が来た」「鬼が来る」と星たちがひそひそ言い出した。
斯くして鬼が現れたのだが、自分と変わらぬくらいの背格好で背広を着た鬼だった。
恐ろしい姿ではなかったが、なんとなく星の入った網をセーターの中に隠しておいた。
「今晩は、よい月夜ですね」
と鬼は言った。街灯が震えあがるのがわかった。
「えぇ、いい月です」
鬼は何事もなく去ったが、結局、星をセーターに隠したまま家に帰った。
巨大な金平糖の角が腹に当たる。
鬼の角は、夜空に突き刺さるほど長く、剣のように鋭かった。

2010年9月5日日曜日

A CHILDREN`S SONG

真夜中のシーソーに男の子が一人。
「おやすみ お星さま、おやすみ お月さま チントン カントン テッテコプー」
へんてこな調子で歌っている。
もっとへんてこなことに、男の子は一人なのに、ギッタンバッコン、シーソーが動いているのだ。
近づいて見れば、男の子の向かいには金平糖が一つ。あまり光っていない。
「子供は寝る時間だ。おうちはどこだい?」
「あっち」
男の子の指差す先には、月があった。
おやおや、お月さまを探しに行かなくてはならないようだ。
男の子を肩車し、光り具合のよくない星をポケットに突っ込み、歩く。
「お月さま、やーい。チントン カントン テッテコプー」
二人でそう歌ったら、月の蓋が、開いた。

2010年9月3日金曜日

A PUZZLE

机の上に並べた星の順番が入れ替わっている。
左から拾った順に並べてあったはずなのに、大きい順になっていたり、意図のわからない並びになっていたりする。
それをお月さまにボヤいたら、「あぁ、それは『よくくっつく順』だ」という。
試しにくっつけてみたら、ピッタリ合わさって、金平糖が棍棒になってしまった。
今度お月さまに会ったら「星が外れない」とボヤかなくてはならない。

2010年9月1日水曜日

A MEMORY

朝起きると、机の上の金平糖が四つになっていた。
最初に拾った星。それからぶつかってきた流星。倉庫の影で見つけた星。もう1つは?
「夢の中で拾った星」
倉庫の影で見つけた星が面倒そうに呟いた。
まさか?
一生懸命に夢の記憶を辿ったけれど、缶切りを探していたことしか思い出せなかった。多分、桃の缶詰を食べたかったのだ。
そんな夢のいつどこで、星を拾ったのだろう。