午前三時に目が覚める。寝返りを打つと、目の前に眠る男の顔があった。
睫毛
額にうっすらと、にきびの跡
規則正しい寝息
左手でそっと顔を撫でる。いとおしさが溢れる。
私は、この人のことが、とても好きなのだ。
再び目を閉じた。
朝、代わり映えのない目覚めだ。
窮屈なベッドの中で起き上がるのを渋っていると、なぜか毛布から他人の匂いがした。心地よい男の匂い。よく知っている男に違いないと思うのに、まったく心当たりがない。
けれど、確かに言えるのは、私はきっとその男がとても好きなのだ。
2009年11月16日月曜日
2009年11月13日金曜日
禁止する看板
「……べからず」
看板はトタン屋根に引っ掛かっている。あちこち錆びていて、文字は最後の「べからず」しか判読できない。
風が吹く。嵐が近づいているのだ。
看板はトタン屋根の上で不恰好な宙返りを三回してから、電線に一瞬触れたあと、犬小屋の前に落ちた。また角がへこむ。
黒の犬がフンフンと検分してから、看板に小便を威勢よく掛ける。
看板は、生暖かい液体が錆びに染み渡るのを感じながら、己がかつて「立ち小便するべからず」ではなかったことを願う。
看板はトタン屋根に引っ掛かっている。あちこち錆びていて、文字は最後の「べからず」しか判読できない。
風が吹く。嵐が近づいているのだ。
看板はトタン屋根の上で不恰好な宙返りを三回してから、電線に一瞬触れたあと、犬小屋の前に落ちた。また角がへこむ。
黒の犬がフンフンと検分してから、看板に小便を威勢よく掛ける。
看板は、生暖かい液体が錆びに染み渡るのを感じながら、己がかつて「立ち小便するべからず」ではなかったことを願う。
ビスケット色
ビスケット色した蝋燭を見つけた。
「ねえ、これに火をつけようよ」
電気消してさ。きっと香ばしい時間を過ごせると思うんだ。
けれども、彼女はあっさり却下した。
「どうしても?」
「どうしても」
何故かって訊いても答えてくれないだろう。
きみには秘密が多すぎる。
年齢も、好きな色も、好きな食べ物も、僕は知らない。
そういえば、名前さえ知らない。
「都会のネオンはまぶしすぎるね」
僕は、きみがくれたビスケット色のマフラーを巻いて、出ていくことにした。四十六階から、階段を使って歩いて降りるつもりだ。
たぶんきみは僕を追いかけない。ビスケットがもうすぐ焼けるころだから。
きみがビスケットのこんがり焼け具合に、拘り過ぎなくらい拘っていることだけは、よく知っているから。
「ねえ、これに火をつけようよ」
電気消してさ。きっと香ばしい時間を過ごせると思うんだ。
けれども、彼女はあっさり却下した。
「どうしても?」
「どうしても」
何故かって訊いても答えてくれないだろう。
きみには秘密が多すぎる。
年齢も、好きな色も、好きな食べ物も、僕は知らない。
そういえば、名前さえ知らない。
「都会のネオンはまぶしすぎるね」
僕は、きみがくれたビスケット色のマフラーを巻いて、出ていくことにした。四十六階から、階段を使って歩いて降りるつもりだ。
たぶんきみは僕を追いかけない。ビスケットがもうすぐ焼けるころだから。
きみがビスケットのこんがり焼け具合に、拘り過ぎなくらい拘っていることだけは、よく知っているから。
2009年11月11日水曜日
七五三の庭
西日を受け、石庭の白砂が薄色に輝いている。普段は観光客で賑やかな方丈だが、今はとても静かだ。いささか静か過ぎる気がしないでもないが、ゆっくりと石庭に対峙できることを嬉しく思いながら、廊下に腰を下ろす。
石の上を軽業師のように飛び跳ねている子供がいる。庭に降り立っては、せっかくの箒目が台無しになってしまうではないか。しかし、箒目には足跡はひとつも見つからず、そんな私の疑念を見透かすように、子供は尚いっそう軽々と油土塀と石の上を軽やかに飛び回っている。
子供は時々ふと見えなくなる。やはり子供は幻かと思うが、またすぐにどこかの石の上に姿を現す。そういえば、方丈の廊下からこの庭の十五の石を全部一度に見渡すことは出来ないという。私から見えない石を承知の上で、飛び回っているらしい。その証拠に、しばらく隠れた後は必ずこちらを見遣り、悪戯っぽい顔で笑って見せるのだ。
小さな石にも大きな石にもぴたりと着地し、そのたびに石庭を見下ろす子供。それはまさしく大海原を見下ろす目であった。その小さな身体はしなやかで、美しく、厳かだった。
いよいよ日が暮れて、飛び回る子供の姿が朧に溶けていく。私は方丈の廊下から退く。方丈の中ほどに立ち、見えなかった石を見ると、子供が手を振っている。こちらもぎこちなく手を振り返す。
ノベルなび未投稿作品 龍安寺石庭
明日は美味しい
「たくさん笑った次の日は、雲がぼくの匂いになる。だから、泣いちゃだめだよ。笑っていてね、ちゃんと見ているよ」
そう言って恋人は目を閉じた。
久しぶりに笑った。声出して笑った。
明日が雨になればいい。どしゃぶりになればいい。止まない雨がいい。
傘を差さずに町を歩いて、、きみの匂いに包まれたまま眠りたい。
そう言って恋人は目を閉じた。
久しぶりに笑った。声出して笑った。
明日が雨になればいい。どしゃぶりになればいい。止まない雨がいい。
傘を差さずに町を歩いて、、きみの匂いに包まれたまま眠りたい。
2009年11月8日日曜日
2009年11月2日月曜日
あかるいね
真っ黒な遮光カーテンをもろともせず、室内に燦燦と陽が降り注ぐ。
「あかるいね」
と彼女はまぶしそうに目を細めた。
一体どういうことだろう。
思い切ってカーテンを開くと、窓の外は、すべての可視光線をこれでもかと凝縮したような明るさなのだった。目が眩んで慌ててカーテンを閉じる。
蛍光灯はいらなくなった。サングラスは見たこともないくらいに黒くなった。
それでも外は明るすぎて、遮光ヘルメットが政府から全国民に支給された。それを被らないととても歩けない。
一番困るのは、いつも二人で行く河原で、彼女にキスできないことだ。
(250字)
+創作家さんに10個のお題+
三里さんのお題は、どこかに甘やかな感じがして、つい恋人を描きたくなる。
私もふと思いついたタイトル案をメモしていて、10個溜まったのだけど、どうしようかな。
逆選王になる見込みはないからなー(笑)
「あかるいね」
と彼女はまぶしそうに目を細めた。
一体どういうことだろう。
思い切ってカーテンを開くと、窓の外は、すべての可視光線をこれでもかと凝縮したような明るさなのだった。目が眩んで慌ててカーテンを閉じる。
蛍光灯はいらなくなった。サングラスは見たこともないくらいに黒くなった。
それでも外は明るすぎて、遮光ヘルメットが政府から全国民に支給された。それを被らないととても歩けない。
一番困るのは、いつも二人で行く河原で、彼女にキスできないことだ。
(250字)
+創作家さんに10個のお題+
三里さんのお題は、どこかに甘やかな感じがして、つい恋人を描きたくなる。
私もふと思いついたタイトル案をメモしていて、10個溜まったのだけど、どうしようかな。
逆選王になる見込みはないからなー(笑)
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