2008年11月11日火曜日

ジングルベルが鳴る前に

サンタクロースは世の人々がクリスマスを思い浮かべる前に、すべての支度を済ませなければならない。
なのに、年々イルミネーションの点灯は早くなるから(おまけに派手になっているときてる!)、サンタクロースは早々にその支度を終えて、暇を持て余している。
トナカイたちもずいぶんと前から起こされソリに繋がれる。
サンタクロースもトナカイも、プレゼントまでもが待ち草臥れて、イヴの晩にはぐったりだ。

主の平和、新鮮なクリスマスを望みなさい。

2008年11月10日月曜日

へ #f7b2c9

ヘ音記号になった蛇は、ヘリウムガスを吸い込み、変幻自在の声でヘビィメタルを唄う。

へ #f7b2c9

2008年11月8日土曜日

ふ #ddb277

古い風呂敷に封印された笛は、不思議な笛だ。
フランスで双子の船乗りが吹いていたが、不慮の踏切事故で笛は汽車に踏み潰された。
再び双子の船乗りの手に戻ったが、笛は複雑な不満を訴えて、冬にしか吹けなくなった。冬の笛の音は不気味で不愉快だった。
双子は笛を風呂に入れ、ふやかして拭いた。それからふんわりと風呂敷に包み、封じることにしたのだ。
以来、笛は風呂敷の中でふにゃふにゃの腑抜けになっている。

ふ #ddb277

2008年11月7日金曜日

ひ #326c11

ヒロインは緋色に光るヒヨコを拾った。
ヒヨコはひ弱なくせに頻繁に冷や水に浸ろうとするから、ヒロインはヒヤヒヤした。
緋色のヒヨコは昼下がりの広場をひとりで歩いていたときに、柊のトゲに引き裂かれ非業の死を遂げた。緋色のヒヨコはたちまち火となり、柊は悲鳴をあげ続けている。

ひ #326c11

2008年11月5日水曜日

DOLL・EYE

アクリル製のその眸に意思はない。だから私は残酷になれる。
鋸を引き、粘土を詰め、床に転がし、足の指でねぶる。
ふと、視線が交わる。青い光彩が、きゅっと縮む。

2008年11月4日火曜日

は #ffdb5b

果たして、早寝早起きは排他的になりうるか。と、八十八夜に考える。指に挟んだ葉巻から灰が落ちる。
遥か昔の初恋の人のはにかむ顔は半永久忘れないはずなのに、排他的早寝早起きについては計り知れない発想力でも博士号は取れないだろう。
ハミングをしながら歯磨きをするほうがハイカラだ。歯磨きが済んだら、早く寝よう。

は #ffdb5b

2008年11月1日土曜日

マリーの部屋

十二の誕生日に、マリーは「博士」からモノクロの薔薇が写った大きなポスターを贈られた。
窓のない壁、白いベッドとデスク、映りの悪い古い白黒テレビがあるだけの部屋が少女の世界の全てだった。大きな平面の薔薇は、生まれて初めて得た装飾だった。
まもなくマリーは「赤」を知り、ポスターの薔薇の花びらを塗ることを覚える。己が股間をまさぐった手指で薔薇を撫で続けた。数日して赤が少なくなると、深く指を入れて抉り取ろうとした。マリーは薔薇が赤いとは知らない。赤の他も知らない。けれども、そうしていると重怠い身体が鎮まるような気がした。
巨大な薔薇の花は月毎にその赤を上塗りされ、甘くすえた臭いを放つ。