アンケート用紙の統計をまとめていると、ウサギが擦り寄ってきて、紙の上に鼻水をぽたぽたと落とす。
インクが滲んで読めなくなるじゃないか、と文句を言おうとウサギを睨んだが、赤い目をますます赤く潤ませているから、怒る気が失せた。
2007年10月10日水曜日
2007年10月9日火曜日
2007年10月7日日曜日
ろくな男じゃありません
「まったく、ろくな男じゃありません、あの男は」
感情を表に出すことのない郵便配達夫が珍しく語気を強めた。とは言っても、普段から気の荒い人間に比べれば穏やかな物言いなのではあるが。
あの男、というのは新しく決まった副町長のことである。これまでこの町に副町長なんて役職はなかった。数ヶ月前、町長が年齢を理由に引退を口にしはしめたことを知った我々町民は、なんとか町長を辞することは避けて欲しい、補佐役を付ければいいじゃないか、と町長とお上に頼み込んだのである。それだけ町長は慕われていた。悪く言っていた輩でさえ、町長の引退宣言には慌てたものだ。
そうしてお上が副町長として寄越した男は、まことにふてぶてしかった。そして意味不明の発言をするのである。
「配達夫は、配達の帰りにメザシを一匹釣ってこい、と言うんです」
と郵便配達夫が嘆いた。
「そんな無茶な!メザシって釣るものじゃないでしょう」
「そう、それを言うならイワシでしょう」
郵便配達夫は自転車をいつもの倍ギコギコ言わせて去っていった。
まもなく、副町長の意図が明らかになった。副町長の発案で新しい町おこしのキャンペーンが始まったのだ。「ノラ猫さんようこそ」
感情を表に出すことのない郵便配達夫が珍しく語気を強めた。とは言っても、普段から気の荒い人間に比べれば穏やかな物言いなのではあるが。
あの男、というのは新しく決まった副町長のことである。これまでこの町に副町長なんて役職はなかった。数ヶ月前、町長が年齢を理由に引退を口にしはしめたことを知った我々町民は、なんとか町長を辞することは避けて欲しい、補佐役を付ければいいじゃないか、と町長とお上に頼み込んだのである。それだけ町長は慕われていた。悪く言っていた輩でさえ、町長の引退宣言には慌てたものだ。
そうしてお上が副町長として寄越した男は、まことにふてぶてしかった。そして意味不明の発言をするのである。
「配達夫は、配達の帰りにメザシを一匹釣ってこい、と言うんです」
と郵便配達夫が嘆いた。
「そんな無茶な!メザシって釣るものじゃないでしょう」
「そう、それを言うならイワシでしょう」
郵便配達夫は自転車をいつもの倍ギコギコ言わせて去っていった。
まもなく、副町長の意図が明らかになった。副町長の発案で新しい町おこしのキャンペーンが始まったのだ。「ノラ猫さんようこそ」
2007年10月5日金曜日
2007年10月4日木曜日
ぐうの音も出ない
ビーズだらけのリーズのばあさんは、
便器に腰掛けグーズベリーのデザートをグチャグチャ食らう。
こんな愚図なリーズのばあさんに、一体誰が共感するだろう。
There was an Old Person of Leeds,
Whose head was infested with beads;
She sat on a stool,
And ate gooseberry fool,
Which agreed with that person of Leeds.
エドワード・リア 『ナンセンスの絵本』より
2007年10月3日水曜日
異人館で逢いましょう
「異人館で逢いましょう」と言ったまま逢えなくなったあの人は、幾つになっただろうか。もう、ずいぶんおばあさんになっているだろう。あの頃、私はまだ若く、あの人は母親より年上に見えた。そんな親子よりも年が離れた人に恋してしまった理由など、わかるはずもない。
あの人への懐かしさだけを頼りに異人館へ行ってみることにした。あの人は、電車から見える丘の上の異人館を一度訪れみたいと、たびたび語っていた。
異人館は車窓から見える様子からは想像もできないほど、荒れ果てていた。草は伸び放題、壁は泥で汚れ、屋根は傷み、蜘蛛の巣があちらこちらにあった。
「数年前まで手入れをしていたおばあさんがいたんだけどね。そのおばあさんが亡くなってから、この有様だよ」
と近所に住むと思しき人が、立ち尽くす私を見兼ねたのか声を掛けていった。
「異人館で逢いましょう」と言った彼女の声が、表情が、はっきりと甦る。この荒れ屋敷のどこかに、私だけがわかるあの人の痕跡があるはずだ。私は伸びた草をかき分けた。
あの人への懐かしさだけを頼りに異人館へ行ってみることにした。あの人は、電車から見える丘の上の異人館を一度訪れみたいと、たびたび語っていた。
異人館は車窓から見える様子からは想像もできないほど、荒れ果てていた。草は伸び放題、壁は泥で汚れ、屋根は傷み、蜘蛛の巣があちらこちらにあった。
「数年前まで手入れをしていたおばあさんがいたんだけどね。そのおばあさんが亡くなってから、この有様だよ」
と近所に住むと思しき人が、立ち尽くす私を見兼ねたのか声を掛けていった。
「異人館で逢いましょう」と言った彼女の声が、表情が、はっきりと甦る。この荒れ屋敷のどこかに、私だけがわかるあの人の痕跡があるはずだ。私は伸びた草をかき分けた。
2007年10月2日火曜日
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