2007年9月9日日曜日

震えるフルート

フルートを吹く老人のブーツに無礼な蛇が押し入った。
服従させようとする蛇にも構わず、老人はフルートを吹き続け、ふいに蛇は吹き飛ばされた。
こうして不吉な予感を払拭したフルート吹きの老人。 


There was an Old Man with a flute,
A sarpint ran into his boot;
But he played day and night,
Till the sarpint took flight,
And avoided that man with a flute.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』

2007年9月8日土曜日

九月八日 オーブン

オーブンで虫ピンを焼いていたら、蒸しパンが出来た。
おいしそうに見えたけれど、喉に刺さるといけないので食べずにいたら、ウサギが食べた。
いつもふかふかな毛並みが、少し刺々しいようだ。

2007年9月6日木曜日

九月六日 台風襲来

台風が迫る中、とぼとぼと歩く。一瞬で全身がずぶ濡れになる。
嵐の中で誰かに会えると嬉しい。たとえそれがウサギでも。
すっかり濡れてぺしゃんこになったウサギは「濡れ鼠だ」と言った自分の言葉にひどく傷ついていた。

2007年9月5日水曜日

九月五日 ブラジルのバスケット

ブラジルからバスケットが届いた。トウモロコシの皮を編んだバスケット。
開けると、部屋はリオの町の香りでいっぱいになった。
ウサギは陽気になって踊った。わたしは、なぜだか寂しい香りだと感じた。
バスケットの蓋を閉じても雨音に合わせてまだ踊り続けるウサギを見たら、泣けてきた。

2007年9月3日月曜日

ぶすり、と刺されて無様なじいさん

木の上のじいさんは、飛び回る蜂に仏頂面。
「蜂にぶつくさに言われるのかい?」と問われて
「そうなのだ!」とじいさんは応える。
「蜂はふてぶてしいと相場が決まっているもんだ」 


There was an Old Man in a tree,
Who was horribly bored by a Bee;
When they said, ‘Does it buzz?’
He replied, ‘Yes, it does!’
‘It’s a regular brute of a Bee!’

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』

2007年9月2日日曜日

「美しいお嬢さん、ペンダントを買わないかね?ほら、試してご覧なさい」
チャイナブルーの硝子玉がついたペンダントを娘の掌に載せる。
陽を浴びた青の硝子玉はみずみずしく輝き、白い娘の手をますます白くするのだった。娘は輝きを遮るかのように、ペンダントを握りしめた。
「握っていないで、首にかけたら好いのに」
娘は目を伏せ、長い髪を左肩に寄せた。
私は息を呑んだ。彼女の首筋には、まだ生々しい深い傷があったから。
娘はペンダントを傷口にあてがった。傷口は待ちかねたようにペンダントを飲み込み、そして塞がっていく。
傷は跡形もなくなったが、娘の瞳は、ペンダントと同じチャイナブルーになり、にっこりと笑顔を見せたまま、崩れ落ちた。
私は人形を抱き抱え、そっとくちづけけてから、瞳を抉り取った。二つになったチャイナブルーの硝子玉を握りしめる。

2007年9月1日土曜日

九月一日 クラクション

バスの運転手は、舌うちしながらクラクションを叩く。
さっきの店で心ときめいた、ミニカーのバスに乗っていると夢想していた私を叩き起こすかのように。