2007年2月7日水曜日

二月七日 二度風呂

風呂上がりの切手たちが父と晩酌を愉しんでいた。
ちょっと目を離したら、酔っ払った切手たちは、父の食べた落花生の殻の中にダイブしていた。
泣きながらもう一度、切手たちを風呂に入れた。

2007年2月6日火曜日

二月六日 するめが食べたい

唐突に剣先するめが食いたかった。
ウサギの後姿までもがするめに見えてくる。
我慢できずにウサギを捕まえてぺろりと舐めた。
しょっぱいのを期待していたのに、甘かった。
ウサギは怒るかと思いきや、多いに照れながら消えてしまった。
まだ口の中が甘い。

2007年2月5日月曜日

二月五日 迷惑電話

「奥さま……失礼、ご主人さまですか?」
と問う電話の向こうの声は、馴れ馴れしかった。
いつもここで迷う。
もっと低い声を出してやろうか、それともわざとらしく甲高い声にしてやろうか。
でも結局、少し気分を害するから自動的に低い声が出る。
「……違います」
どちらにせよ、相手はここで電話を切ってくれる。今日もそうだった。
ところが、受話器を置いたあとも、相手の声が筒ぬけだった。
「性別不明。ブラックリストに登録しました」
わたしは何のブラックリストに載ってしまったのだろうか。

2007年2月4日日曜日

二月四日 行列

行列に遭遇した。
無言の行列は、気色悪いほど整列していた。
多くの人は、本を読んでいる。
列ぶ人々からは待ち遠しさも苛立ちも感じなかった。
この人達ならあと二日くらい黙って列んでいられそうだ。
行列の先頭を追っていくと、メロンパンを売る屋台があった。
屋台の中では、かいがいしくウサギが働いていた。
「1800円」
やはり、法外な値段のメロンパンだった。

二月三日 長い夜

父の帰りを待つだけの夜。朝四時に起きて、帰る頃には、たぶん日付が変わってる。
ウサギがひとっ跳びで迎えに行ってくれればいいのに。
そうじゃなければ、どこでもドア。
どちらが現実的だろう。
どっちだっていい。早く帰ってきて欲しいだけ。
手持ち無沙汰を言い訳に、ぐっすり眠っているウサギの耳と耳を縛ってみたけど、すぐに戻ってしまった。

2007年2月2日金曜日

二月二日 おなかがすいた

予定外の残業で、ただひたすら夕食が待ち遠しかった。
ウサギが食べていなければいいのだけど、と気持ちは焦る。
おまけに、23時のバスは意外とのんびり走るのだ。

2007年2月1日木曜日

二月一日 ヘーゼルナッツココア

ヘーゼルナッツココアは、たっぷりと厚いマグカップに注がれていた。
でも、マグカップは生クリームでできていたから、急いで飲まないと、溶けてしまう。
わたしは、美味しいココアを慌てて飲まなければならなかった。
でも、そんなふうに慌てていたのは、わたしだけだったのだ。
友達のマグカップも、ほかのお客のマグカップも、しっかりとした白い陶器だ。生クリームなんかじゃない。
一体誰の仕業だろうか。今日はウサギを一度も見ていない。