2006年8月13日日曜日

危険な卵

白と桃色の縞模様の卵がプールで泳いでいた。
卵の分際で水遊びか!ゆで卵にして懲らしめてやる。
ゆで卵になった縞卵を半分に切ると黄色と黒の縞模様の黄身で、とても食べる気にならなかった。

*縞*

2006年8月12日土曜日

これも縁

乗り上げたトラックに惚れてしまった環状77号線の縁石。
仕方がなくトボトボ歩いたのはトラックの運転手とトラックが運んでいた荷物。

*縁*

2006年8月10日木曜日

子供に捕まった月の話

午後九時、虫取り網を持った子供を見つけて月は声を掛ける。
「やい、子供。こんな時間に網なんぞ持ってどうするつもりだ」
子供は夜空を見上げて答える。
「お月さんを捕るんだ」
月は苦笑する。こんな子供に捕まっては堪らない。
「こんな網では月は捕まらない。月を捕まえるのは、事前の準備とコツがいる」
「おじさん、それ、全部教えて!」
月は、メモを取る子供に延々ニ時間質問攻めに合った。
おまけにジンジャーエールを二本も驕ったのだった。

*網*

2006年8月9日水曜日

夕焼けおすそ分け

夕焼け雨が降っている。何年振りだろうか。
大急ぎで白い木綿の布を持って外へ出た。
物干しに掛けて布を雨に当てる。
夕焼けが消える寸前に、布を引き上げ、絞った。
「あぁ…」
広げると夕焼けとまったく同じ茜色の布。私は夕食の仕度も忘れてうっとりと布を眺めた。

翌朝、すっかり乾いた布はもとの白い木綿に戻っていた。
そのまま畳んで箪笥のひきだしに仕舞う。次の夕焼け雨は、明日か十年後かわからないけど。

*綿*


2006年8月5日土曜日

迷い

縹色したリンゴ。毒リンゴみたい。
「確かに、これは毒リンゴだ」
あら、当たった。毒リンゴなんかどうするの?わたしに食べさせる気?
皮だけじゃなく、実まで縹色してる。
「綺麗だろう?」
リンゴじゃなければ。
「さぁ、お食べ。これが最後の食べものだ。」
でも、毒なんでしょう?私たち、この最後のリンゴを食べても食べなくても死んでしまうのね。
あ、蟹だ。

大きな蟹は縹色のリンゴを食べて、ますます大きくなると、満足そうにゲップをした。

*縹*

2006年8月4日金曜日

みみずの籠

みみずを編んで、籠を作る。そこに痩せた土を入れておくとみみずがせっせと食って出して、籠の中は黒いほくほくな土でいっぱいになる。といいのになぁ。
妄想しながら土地を耕す。みみず一匹出て来やしない。堆肥の匂いが強くなった。

*編*

2006年8月2日水曜日

製本

紙を針で突き破り、糸で繋ぎ合わせる。
単なる紙の束だったものが、本になる。傷をたくさん付けたのに、本になる。
本は饒舌だ。さっき本になったばかりのくせに、もう澄ました顔で語っている。
表紙を付けないうちは半人前だよ、と言い聞かせる。聞き分けは、あまりよくない。


*綴*