2005年5月8日日曜日

ココアのいたずら

「キナリちゃん、何飲む?」
「ココア」
よく晴れた夜、少女と月は鬼の部屋にいた。
「ハイ。どうぞ、めしあがれ」
「いただきます!…オニ、今日のクッキーはカクベツにおいしいよ」
少女がそういうと、ココアがクッキーを食べ始めた。
クッキーが次々とマグカップに飛び込んでいく。
たっぷりあったクッキーは、瞬く間になくなった。
「おい、まだ私はひとつも食べていないぞ。卑しん坊のココアめ。」
月が嘆くと鬼は言った。
「もう一度作りましょ」
「でも、またココアが食べちゃうかもしれない」
「心配ないわ、キナリちゃん。ココアはもう満腹で食べられないはずよ」

2005年5月6日金曜日

THE MOONMAN

「……月の男は、エリーをしっかりと抱きしめ、口づけをしました。エリーにはそれがお別れの挨拶だとわかりました。とうとう、二人のくちびるが離れました。そして、月の男は振り返ることなく去ったのです。おしまい」
長い名の絵かきは「THE MOONMAN」と題された本を閉じると、月に言った。
「この月の男は、ずいぶんモテるんだね」
背の低いコルネット吹きは
「この月の男は、ちょっとばかり、かっこつけすぎているよ」
と笑う。
「ナンナルは、こんなこと書かれてイヤじゃないの?」
少女の声は、刺々しい。
月は溜め息をついた。一体誰がエリーと月のことを書き残したのであろうか。863年も前の恋物語を。

2005年5月5日木曜日

月をあげる人

「お月様をあげます」
月と少女は、男に声をかけられた。
差し出された手には「月」と書かれた紙があった。
二人が何も言わずにいると
「お月様をあげます」
ともう一度言う。
「月は私だが…」
と月が言いかけると少女が遮った。
「ありがとう。お礼に飴あげる」
男はニコリとして去って行った。
「なんだ今のは。キナリ、やっぱり文句を言ってくる」
すぐに「お月様をあげます」と後ろでも声がして月は溜め息をついた。
その晩、街を歩く人は皆「月」の紙を持っていた。
「ねぇ、ナンナル。あの人、お月様がきれいなことをみんなに教えたかったんだよ。ほら、みんな月見ながら歩いてるよ」

2005年5月4日水曜日

水道へ突き落とされた話

月と少女が歩いていると、すぐ目の前のマンホールのフタが勢いよく跳ねて中からレオナルド・ションウ゛ォリ氏が顔を出し、「ほほーい」と言うとすぐ消えた。
月が驚いていると、ションウ゛ォリ氏は月の背後に現れて背中を押したので、月は水道に墜落した。
「ナンナル!」
心配そうに水道を覗き込む少女の隣で
「ナンナル殿、水も滴るいい月のできあがり、ですぞ」
と満足げなレオナルド・ションヴォリ氏は、じいさんだ。

2005年5月3日火曜日

はたして月へ行けたか

「ヌバタマ、今夜は一緒に月へ来てもらう」
月がそう言うと、しっぽを切られた黒猫はプルンと左耳だけを動かした。蝿でも追い払うように。
「キナリも行く」
少女は高らかに声をあげた。
「ヌバタマだけだ」
「なんで? どうして? ナンナル!」
月は応えず、黒猫を抱えて出て行った。
少女は長い時間ベッドの中で泣いていたが、やがて眠った。
朝、少女が目覚めると、黒猫はいつもの通り、お気に入りのクッションの上で丸まっている。
「ねぇ、ヌバタマ。月に行ったの? どんなところだった?」
黒猫は寝返りをうつだけ。

2005年5月2日月曜日

星におそわれた話

ドシン
流星に衝突されるのは、毎度のことではあるが今夜は少し様子が違った。
月は、オンオンと泣きはじめた。夜の街に月の泣き声が響く。
「ナンナルどうしたの? 痛かったの?」
つられて少女も涙を浮かべる。
「流星が泣いていたのだ。ウワーン、その涙も私を襲った。エーン、私をこんな目に合わせるなんて、流星の奴! ワーン」

2005年5月1日日曜日

星でパンをこしらえた話

ドシン
「流星!」
月は不機嫌な顔で流星の後姿を見送る。
「ナンナル。これ何?」
少女は道にばらまかれたものを指差した。
「あぁ、それはヤツのカケラだ。激しくぶつかったから、砕けたんだろう」
「流星は痛くないの?」
「痛いものか。それ、パンに混ぜると美味いぞ」
「じゃあ、オニに作ってもらう!」
月と少女はオニを訪ねた。「まぁ!星のカケラ!素敵ね。早速こしらえましょう。どんなお味かしら、楽しみだわ」
小さな少女と恐ろしい顔の鬼が一緒になってパンをこねる。それを見て、月は流星にぶつかるのも悪くないと思った。