2005年4月8日金曜日

黒猫のしっぽを切った話

「ねぇ、ナンナル。あそこに黒い猫がいる」
「どこだ?あぁ、あそこか。まだ小さいな」
「あの猫と友達になる」
「ノラ猫だぞ、根気よく付き合わないと…」
月の話も聞かずに少女は黒猫に近付く。
猫の後から手を伸ばして尻尾を掴み、猫が暴れる暇もなく、ハサミで切り取った。
「キナリ!」

少女は黒い尻尾を振り回し、月に合図する。黒猫は少女の脚に頬を擦りつけている。
「ほら、仲良くなったよ。猫、名前は?」
[ヌバタマ]
「変な名前」
[あんたもな]

2005年4月7日木曜日

SOMETHING BLACK

「今日は何を描きましょうか?お嬢さん」
長い名の絵かきがおどけて尋ねる。
「リンゴ」
少女が応える。
「かしこまりました」
絵かきは赤色の絵の具を筆に取る。キャンバスに浮かび上がるリンゴ。
絵かきは緑色の絵の具を筆に取る。キャンバスに浮かび上がる鳥。
「この鳥はリンゴが好きなんだね!もっと描いて!」
絵かきはリンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描いた。
「もっと描いて!」
絵かきはリンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描いた。
キャンバスに赤いリンゴと緑の鳥が溶け合う。

「見て、ナンナル」
「プキサに描いてもらったのか……まっくろけ、だな」
「リンゴと鳥だよ」

2005年4月6日水曜日

IT 'NOTHING ELSE

「ね? ナンナル。あれ? ナンナルが消えちゃった」
月だけではない。道も、建物も、街路樹も。
なぜなら、少女は蓋の開いたマンホールに落ちたのだ。

2005年4月4日月曜日

ある晩の出来事

ある晩、長い名の絵かきが公園を通ると、少女がブランコに座って泣いていた。
「……キナリ?キナリ、どうしたんだい?こんなところで。…嫌なことがあるなら、話してごらんよ」
少女は顔あげ、絵かきとわかると口を開いた。
「……ピ、ピベラ・デュオガひっく、ハソ・ヘリンスセカ・ド・ずず、ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ふ、ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプンふふふ、ケルセプニューナ・ド・リあは、シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウあはは、ベリンセカ・プキサ!!」
少女は笑い出した。
「えへへ、ぼくの名前を言ってるうちに楽しくなっちゃったね。どうして泣いてたの?」
「……なんだっけ?」
二人はアップルタイザーで乾杯した。
この晩は、新月だった。

2005年4月3日日曜日

月光鬼語

「あ、あそこに何か落ちてる。本だ」
少女が道端で拾った本には『月光鬼語』と書かれていた。
「ナンナル、何て読むの?」
「げっこうきご。……どうやら鬼の心得を書いたもののようだ。鬼が落としたのだろう。」
「オニ? じゃあ返しに行こう」
少女は月を従えてスタスタと歩き、まもなく四階建てのアパートにやって来た。
402号室のチャイムを鳴らす。
「ハーイ」
出てきた鬼は月がそれまで出会った鬼の中でも特に大きく白い角と濃い髭を持っていた。それは彼の鬼としての権威の強さを表している。
「これ、オニの本?」
「あら、やだ。こんな大事なもの落とすなんて。キナリちゃんにご馳走しなくちゃネ。もちろん、お月様もご一緒に」
少女と月は、鬼手づくりの焼きりんごを食べた。
帰り道。
「キナリがあんな大きな鬼と知り合いとは驚いたな」
「ん? どうして驚くの?」
まっすぐな目を向けられて、月は尋ねるのを諦めた。『月光鬼語』の第一章は「人間の子の調理法」である。

2005年4月1日金曜日

A CHILDREN'S SONG

「満月だよ、ナンナル。一緒に踊ろう」
月は少女にお辞儀をして手を取る。
「せーの。ポッチッチ、ポッチッチ」
「待ってくれ。なんだ、そのポッチッチというのは」
「ワルツだよ、ワルツ知らないの?」
「ワルツは得意だ」
「じゃ、もう一度」
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
満月のもと、月は少女とワルツを踊る。
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
満月のもと、月は少女の歌に合わせてワルツを踊る。
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ

A PUZZLE

「お嬢さん、似顔絵を描いてあげよう」
月と夜の町を歩いていた少女は、路上の絵かきに呼び止められた。
「お嬢さんの名前は?」
「キナリ。絵かきさんは?」
「ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサ。長いでしょう?プキサって呼んで。皆そう呼ぶんだ」
 長い名の絵かきが描いた少女の似顔絵を見て月は言った。
「なんだこれは!目も口も耳もバラバラだ。とても顔には見えない」
少女は絵を受け取ると、黙って破りはじめ、たちまち19片の紙屑になった。次にそれを、新しい画用紙にスラスラと並べ張り合わせた。
「すてき!見て、ナンナル、キナリとそっくりだよ。上手だね!ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサ、ありがとう!また遊びにくるよ!」
月は渋い顔で絵かきに硬貨を渡した。