2004年12月9日木曜日

 アケミちゃんはアンドーナッツを食べます。アケミちゃんはアンドーナッツより甘納豆のほうが甘いから好き
なのだけれど、あいにく甘納豆は朝市で売っていませんでした。
 アンドーナッツを食べ終わってあくびをしていたアケミちゃんは足元にアリが集まっていることに気付いきま
した。「あー!」と声をあげるとアリたちはアケミちゃんを見上げて
「アンドーナッツをありがとう、アケミちゃん。」
と言いました。アリたちはアンドーナッツのおこぼれにあずかったのです。アケミちゃんのお行儀は目に余るも
のがあるようですね。
 あきらめの悪いアケミちゃんはアリに負けじとアンドーナッツのカケラを集めました。あまりにも浅ましいの
で茜色のアゲハチョウも呆れています。
 茜色のアゲハチョウというのは雨上がりの朝の空き地にしか現れません。アケミちゃんはそれを見つけて
「あ!茜色のアゲハチョウだ」
と網を振り回しました。
 あっという間にアゲハチョウを捕まえたアケミちゃんはアキラくんに挨拶に行きました。
「アキラくん、茜色のアゲハチョウを捕まえました。」
アキラくんは茜色のアゲハチョウが欲しくなって、アケミちゃんと争いました。
 荒っぽく扱われたアケミちゃんは穴に埋められ、茜色のアゲハチョウは明くる日に泡になりました。あしから
ず。

きららメール小説大賞投稿作

2004年12月7日火曜日

ないしょばなし

影の涙は酸っぱいんだってさ。

2004年12月5日日曜日

某国の格言

「皿は割れても皿の影は割れない」

2004年12月4日土曜日

ゆきのゆめ

ぼくの影の恋の相手は雪だるまだった。
近所の子供が作ったであろうその雪だるまの前を通り掛かかったその時
影は僕からすっと離れ、雪だるまに寄り添い、染み込んだ。
雪だるまは白ではなくなり、影は黒くなくなった。
僕はその光景を見てドキドキした。恋愛映画を見ているように。
翌日から雪だるまは溶け始め、四日後に雪だるまとは呼べない形になり、その二日後には跡形もなくなった。
僕はアスファルトに、僕の影の痕跡を求めたが、見つけることはできなかった。

2004年12月3日金曜日

雪の洗礼

初めて雪国へ行ったのは小学五年の冬だった。
僕は興奮し、ただただ一人で駆け回っていた。
しばらくはしゃいでいると、突然とパキリと動けなくなった。
「おとーさーん!」
どうしていいかわからず父を呼ぶが、積もった雪は声を吸い取った。
「影が凍ったな」
そばを通り掛かったおじいさんが言った。
「そこへ倒れとけ。じきに溶けるすけ」
ぼくは雪の上に仰向けに倒れた。
大の字になって灰色の空を眺めていると、じんわりと背中が暖かくなった。
背中が痒くなったので起き上がった。
ぼくはまた、駆け出した。

2004年12月2日木曜日

小春日和

影が眠ってしまったので、抱えて歩く。寝息を立てる影はお日さまの匂いがする。

2004年12月1日水曜日

イキハヨイヨイ カエリハ…

散歩にでかけた。道が分かれ、どちらに行こうか迷っていると影が指を指した。
「影の言うとおりに行ってみるか」
影は辻にくる度にビシッと指を指した。
僕は影の指図を見逃さないように下ばかり見て歩いた。
少しづつ影が長くなり、すぐに暗くなった。
しばらくは街灯を頼りに影は動いていたが、まもなく真っ暗になった。
はじめて辺りを見回した。暗くて何も見えないが、知らない場所であることは間違いない。
足が棒のように疲れていた。のども渇いた。冷たい風が吹いた。
でも僕は財布もコートも持っていない。ほんの少し近所を廻るつもりで家を出たのだから。
僕はその場にしゃがみ込み、目を閉じた。朝になれば影が家まで連れていってく れる さ…