ポケットがうるさい。勉強しろだの、うがいをしろだの、ネクタイが曲がっているだの、スカートが短いだの、化粧が濃いだの。
制服のブレザーの左ポケットはせわしなくパクパク動きながら小言を言う。
中学に入った途端、始まった。
ステキな制服を着るんだ、と張り切って受験して入った学校。
でもママはずーと、「制服のない学校にしたら?うるさいよ、制服は」と言い続けていた。
ステキな制服を着ることがなにより大事だと思ってたから、ママの説得は聞かなかった。
でも、ちゃんと聞いておけばよかったみたい。本当うるさいよ、制服は……。
2004年9月7日火曜日
2004年9月6日月曜日
運の尽き
ぼくのズボンのポケットはいつもパンパンに膨れていて、しょっちゅう人に「一体なにが入っているんだ?」と聞かれるけれど
何が入っているのか、実はさっぱりわからない。
丸めたハンカチや鼻水のついたちり紙が入っているわけではない。ポケットは本当にカラなのだ。
昨日、ポケットが全然膨れていないことに気付いた。
ぼくは気分がよかった。いい大人がズボンの両ポケットを膨らませて歩くなんて、だらしがないことこの上ないもの。
ぼくは堂々と歩いた。
そして、石につまずいた。自転車にぶつかった。切符を無くした。痴漢に間違えられた。
ぼくのポケットには一体何が入っていたんだろう。
何が入っているのか、実はさっぱりわからない。
丸めたハンカチや鼻水のついたちり紙が入っているわけではない。ポケットは本当にカラなのだ。
昨日、ポケットが全然膨れていないことに気付いた。
ぼくは気分がよかった。いい大人がズボンの両ポケットを膨らませて歩くなんて、だらしがないことこの上ないもの。
ぼくは堂々と歩いた。
そして、石につまずいた。自転車にぶつかった。切符を無くした。痴漢に間違えられた。
ぼくのポケットには一体何が入っていたんだろう。
2004年9月5日日曜日
注意書き
『お買い上げ誠にありがとうございます。お買い上げいただきました商品には多数のポケットがついており、稀にオバケが住み着いていることがありますが、オバケは人体に無害で、品質にも問題ありませんので安心してお使い下さい。なお、オバケがいない、というお問い合わせにはお答えできかねます。ご了承ください。猫印鞄』
2004年9月4日土曜日
すいむ
ズボンのポケットに手をいれ、中を指でいじりながら、銀座の街を歩いていた。これは私の癖で、どのズボンも、ポケットの内側がほつれている。
「あ」
指が布を突き破った。薄くなったところに穴が空いたのだ。奇妙な感触が足を伝う。
「やだ、あの人おもらししてる」
ポケットに空いた穴から水が流れ落ちているのだ。見る見るうちに私の足元に水溜まりができた。
「これはおもらしではありません!」
思わず叫んだが、ますます周囲の人は避けていく。
「おっさん、長いションベンだな」
若者にからかわれたとおり、ポケットから流れ出る水の勢いは止まらない。
だれが呼んだのか、パトカーと救急車と消防車がやってきた。水は私の足首まで溜まり、近くの宝石店の中にまで流れ込んでいる。
「おい、すぐに来てくれ」
私は携帯で妻を呼び出した。妻が来るまでの四十分間で水は膝下まで溜まった。
いつの間にか、周りには誰もいなくなっている。高い場所に避難したのだろう。
妻は頭に裁縫箱を載せ、水着姿でやってきた。
「だから、糸と針を持ち歩いて、って言っているのに」
妻の不機嫌な声に返事をすることもできない。水で重たくなったズボンを苦労して脱ぎ、妻に渡す。
妻は未だ溢れ出す水を被ってびしょ濡れになりながらポケットの穴を繕った。水は跡形もなく引いた。
「あ」
指が布を突き破った。薄くなったところに穴が空いたのだ。奇妙な感触が足を伝う。
「やだ、あの人おもらししてる」
ポケットに空いた穴から水が流れ落ちているのだ。見る見るうちに私の足元に水溜まりができた。
「これはおもらしではありません!」
思わず叫んだが、ますます周囲の人は避けていく。
「おっさん、長いションベンだな」
若者にからかわれたとおり、ポケットから流れ出る水の勢いは止まらない。
だれが呼んだのか、パトカーと救急車と消防車がやってきた。水は私の足首まで溜まり、近くの宝石店の中にまで流れ込んでいる。
「おい、すぐに来てくれ」
私は携帯で妻を呼び出した。妻が来るまでの四十分間で水は膝下まで溜まった。
いつの間にか、周りには誰もいなくなっている。高い場所に避難したのだろう。
妻は頭に裁縫箱を載せ、水着姿でやってきた。
「だから、糸と針を持ち歩いて、って言っているのに」
妻の不機嫌な声に返事をすることもできない。水で重たくなったズボンを苦労して脱ぎ、妻に渡す。
妻は未だ溢れ出す水を被ってびしょ濡れになりながらポケットの穴を繕った。水は跡形もなく引いた。
2004年9月2日木曜日
なにを入れる?どこに入れる?
「青いポケットにはさくらんぼ、黄色いポケットにはハッカ飴、赤いポケットには消しゴム、緑のポケットにはひまわりの種よ、まちがえないでね」
ぼくはまず八百屋に行ってさくらんぼを買い、青いポケットにしまった。
つぎに駄菓子屋に行きハッカ飴を一つ買うと、緑のポケットに入れた。
駄菓子屋のとなりが花屋だったのでひまわりの種を貰い、黄色いのポケットに入れる。
文房具屋は少し遠かった。なんとか文房具屋に着き、消しゴムを買うと、店のおばさんに「間違いはないんだね?」と聞かれてうなずき、赤いポケットに入れる。
「あれほど注意したのに違ってる。黄色いポケットにはさくらんぼ、赤いポケットにはハッカ飴、緑のポケットには消しゴム、青いポケットにはひまわりの種、だよ」
ぼくはまず八百屋に行ってさくらんぼを買い、青いポケットにしまった。
つぎに駄菓子屋に行きハッカ飴を一つ買うと、緑のポケットに入れた。
駄菓子屋のとなりが花屋だったのでひまわりの種を貰い、黄色いのポケットに入れる。
文房具屋は少し遠かった。なんとか文房具屋に着き、消しゴムを買うと、店のおばさんに「間違いはないんだね?」と聞かれてうなずき、赤いポケットに入れる。
「あれほど注意したのに違ってる。黄色いポケットにはさくらんぼ、赤いポケットにはハッカ飴、緑のポケットには消しゴム、青いポケットにはひまわりの種、だよ」
2004年9月1日水曜日
ポケット屋へようこそ
いらっしゃいまし。
どんなポケットがお望みで?
ええ、こちらのズボンは何の変哲もないように見えますが
このポケットは、「いれこ」になっておりまして。
マトリョーシカ、ええ、さようでございますね。
こちらでございますか?貴方はお目が高こうございますね。この帽子、非常に人気がありまして。
このようにてっぺんにポケットがついております。傘を入れておくと便利だと評判でございます。
こちらはいかがでしょう。
寝袋でございますが、びっしりポケットがついています。
ほら、内側にも。寝袋はヒトが入るポケットでございますから当店でも仕入れに力を入れております。
あちらの部屋には、珍しいポケットが展示してございます。
あらゆる有袋類のポケットはもちろん、世界一大きなポケット、ポケットの化石、穴が開いているのに中の物が落ちないポケットなどをご覧になれます。
ええ、お金は頂戴いたしません。ごゆっくりどうぞ。
お気を付けて…目には見えない時空のポケットが落ちていますから……
どんなポケットがお望みで?
ええ、こちらのズボンは何の変哲もないように見えますが
このポケットは、「いれこ」になっておりまして。
マトリョーシカ、ええ、さようでございますね。
こちらでございますか?貴方はお目が高こうございますね。この帽子、非常に人気がありまして。
このようにてっぺんにポケットがついております。傘を入れておくと便利だと評判でございます。
こちらはいかがでしょう。
寝袋でございますが、びっしりポケットがついています。
ほら、内側にも。寝袋はヒトが入るポケットでございますから当店でも仕入れに力を入れております。
あちらの部屋には、珍しいポケットが展示してございます。
あらゆる有袋類のポケットはもちろん、世界一大きなポケット、ポケットの化石、穴が開いているのに中の物が落ちないポケットなどをご覧になれます。
ええ、お金は頂戴いたしません。ごゆっくりどうぞ。
お気を付けて…目には見えない時空のポケットが落ちていますから……
魔法
『隣家の主婦、口笛で火事を消し止める』
あなたはとんでもないと思うでしょうけど、その時の私にはなんでもないことだったのよ。
********************
500文字の心臓 第41回タイトル競作投稿作
あなたはとんでもないと思うでしょうけど、その時の私にはなんでもないことだったのよ。
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500文字の心臓 第41回タイトル競作投稿作
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