ひょっこひょっこと背の低い男がぶつくさ歌いながら歩いていた。
「きゃんどる、ろうそく、えっほ、えっほ」
壁の蝋燭の前に来ると今度はインギンに低い声を出した。
「あいせっふぁいあ と きんど」
禿びて消えかかった蝋燭に手をかざし息を吹きかけると、たちまち蝋燭は甦った。
主水くんは合点した。
おそらくこの人が地下通路の唯一の明かりである蝋燭の管理をしているのだ。
「こんにちは」
「どうでっしゃろ」
「あのう、おじさんが蝋燭をつけて回ってるんですか?」
「わしがやらなきゃだれがやる。あいせっふぁいあ と きんど」
「この蝋燭、どのくらい火が持つんですか?」
「一時間。あいせっふぁいあ と きんど」
「蝋燭、何本あるんですか?」
「千本。あいせっふぁいあ と きんど」
「そんなに!」
2004年1月8日木曜日
2004年1月7日水曜日
耳を澄ます百合ちゃんのこと
コツン コツンコツン コツンと後方で不規則な足音がすることに気づいたのは百合ちゃんだった。
言い忘れていたが百合ちゃんは耳がいい。摩耶の歌声を耳栓なしで聞くことができるのだ。
自分の声がよく聞こえるせいか、百合ちゃんの声はやや小さい。
「ねぇ、主水くん、後に誰かいるみたい……」
「ん?なに?」
「うしろに」
「誰かいるの?シネマを見に行く人じゃない?」
「ううん、変な歩き方してるし……おかしな歌を歌ってるみたい……」
「見てきたほうがいい?」
「うん……」
主水くんはだいぶ前を歩いているションヴォリ氏と摩耶に声を掛けた。
(掃部くんの歩調に合わせていた主水くんたちは、ションヴォリ氏たちと離れてしまっていたのだ。)
「博士!少し待っててください」
「どうかしたのか、モンドくん」
「ちょっと後の様子を見てきます。時間はまだ32分44秒ありますから」
「ほいほい」
言い忘れていたが百合ちゃんは耳がいい。摩耶の歌声を耳栓なしで聞くことができるのだ。
自分の声がよく聞こえるせいか、百合ちゃんの声はやや小さい。
「ねぇ、主水くん、後に誰かいるみたい……」
「ん?なに?」
「うしろに」
「誰かいるの?シネマを見に行く人じゃない?」
「ううん、変な歩き方してるし……おかしな歌を歌ってるみたい……」
「見てきたほうがいい?」
「うん……」
主水くんはだいぶ前を歩いているションヴォリ氏と摩耶に声を掛けた。
(掃部くんの歩調に合わせていた主水くんたちは、ションヴォリ氏たちと離れてしまっていたのだ。)
「博士!少し待っててください」
「どうかしたのか、モンドくん」
「ちょっと後の様子を見てきます。時間はまだ32分44秒ありますから」
「ほいほい」
2004年1月6日火曜日
落とし穴のこと
大通りの花屋と靴屋の間には大きな四角い穴がある。
店舗がぴっちり立ち並ぶ大通りにあってその隙間はあきらかにテンポを乱している。
余所の人がそうと知らずにのぞき込み、足を踏み外して怪我をする事故も後を断たない。
ゆえに通称「落とし穴」。
実はこれが劇場への入り口なのだ。
石でできた長い階段を降りて暗い地下通路を15分ほど行くと、劇場だ。
掃部くんがここに入るのは初めてである。
通路は三人歩くのがやっとくらいの幅で、天井も低い。
両側の壁には6尺ごとに蝋燭が灯されているが、それでも相当に暗い。
五人の足音がカン カンと響きわたる。
店舗がぴっちり立ち並ぶ大通りにあってその隙間はあきらかにテンポを乱している。
余所の人がそうと知らずにのぞき込み、足を踏み外して怪我をする事故も後を断たない。
ゆえに通称「落とし穴」。
実はこれが劇場への入り口なのだ。
石でできた長い階段を降りて暗い地下通路を15分ほど行くと、劇場だ。
掃部くんがここに入るのは初めてである。
通路は三人歩くのがやっとくらいの幅で、天井も低い。
両側の壁には6尺ごとに蝋燭が灯されているが、それでも相当に暗い。
五人の足音がカン カンと響きわたる。
2004年1月5日月曜日
主水くんの胸に冷たい風が通り抜けたこと
翌日、ションヴォリ氏と主水くんと掃部くんが10時00分2秒に噴水前に到着すると、すでに百合ちゃんは待っていた。
「おはよう、百合ちゃん。早いんだね」
「掃部ちゃん」
「あー、ゆりちゃーん」
「久しぶりね、掃部ちゃん」
掃部くんは百合ちゃんの手を取ってブンブン振り回している。主水くんはちょっと寂しい。
10時4分23秒に摩耶がやってきた。
「おはよう、レオナルド、みんな」
「さぁ、行こう。シネマは10時45分の開演なんだ」
ションヴォリ氏と摩耶はしっかりと腕を組んでずんずん歩き始めた。
へんな動物の皮を着た掃部くんは百合ちゃんに手を引かれて歩き出した。
主水くんは、とても寂しい。
仕方ないのでちょっと強引に、空いている掃部くんの右手を取った。
「あんちゃん、おてていたいよー」
「うるさい」
「?」
「おはよう、百合ちゃん。早いんだね」
「掃部ちゃん」
「あー、ゆりちゃーん」
「久しぶりね、掃部ちゃん」
掃部くんは百合ちゃんの手を取ってブンブン振り回している。主水くんはちょっと寂しい。
10時4分23秒に摩耶がやってきた。
「おはよう、レオナルド、みんな」
「さぁ、行こう。シネマは10時45分の開演なんだ」
ションヴォリ氏と摩耶はしっかりと腕を組んでずんずん歩き始めた。
へんな動物の皮を着た掃部くんは百合ちゃんに手を引かれて歩き出した。
主水くんは、とても寂しい。
仕方ないのでちょっと強引に、空いている掃部くんの右手を取った。
「あんちゃん、おてていたいよー」
「うるさい」
「?」
2004年1月3日土曜日
思惑がはずれた主水くんのこと
そういえば主水くんと百合ちゃんがこうしてゆっくり顔を合わすのはひさびさだ。
主水くんは思い切った。
「百合ちゃん明日は時間ある?シネマに行かない?明日の10時きっかりから10時4分59秒の間で待ち合わせよう。噴水のところで」
主水くんは一息にしゃべった。
「いいねぇ!行こう行こう」
答えたのは百合ちゃんではなく、摩耶だった。
「ほっほーい!シネマ!久しく見とらんな。リリィ、何が見たい?」
「あの、別に博士たちは……」
「掃部も一緒でしょ?やっぱりヒーローものかなー。百合はイヤ?」
「ううん、そんなことない。楽しみ」
主水くんは思い切った。
「百合ちゃん明日は時間ある?シネマに行かない?明日の10時きっかりから10時4分59秒の間で待ち合わせよう。噴水のところで」
主水くんは一息にしゃべった。
「いいねぇ!行こう行こう」
答えたのは百合ちゃんではなく、摩耶だった。
「ほっほーい!シネマ!久しく見とらんな。リリィ、何が見たい?」
「あの、別に博士たちは……」
「掃部も一緒でしょ?やっぱりヒーローものかなー。百合はイヤ?」
「ううん、そんなことない。楽しみ」
2004年1月2日金曜日
パフェに取り付くションヴォリ氏のこと
結局、ションヴォリ氏と主水くんと百合ちゃんの三人は摩耶の歌う喫茶店でチョコレートパフェを食べている。
「博士、こんな巨大なパフェでいいんですか?しかも、おやつの時間を47分23秒過ぎています。あとで食事が入らなくてもしりませんよ」
「だいじょうぶ。クリームがたっぷりで大変結構」
「わたし、お金持ってきてないよ……」
「気にしないで、百合ちゃん。お代は博士か゛ぜーんぶ持つからね」
「うん……ありがと、ションヴォリさん」
「リリィはやせっぽちだからなー。顔色も悪いの。たんとお食べ」
「博士、なんてこと言うんですか。百合ちゃんがもともと色白なのは博士だって知ってるでしょう」
「おーこわいこわい。モンドくんは何でそんなにご機嫌ななめなのかね」
「博士!」
「博士、こんな巨大なパフェでいいんですか?しかも、おやつの時間を47分23秒過ぎています。あとで食事が入らなくてもしりませんよ」
「だいじょうぶ。クリームがたっぷりで大変結構」
「わたし、お金持ってきてないよ……」
「気にしないで、百合ちゃん。お代は博士か゛ぜーんぶ持つからね」
「うん……ありがと、ションヴォリさん」
「リリィはやせっぽちだからなー。顔色も悪いの。たんとお食べ」
「博士、なんてこと言うんですか。百合ちゃんがもともと色白なのは博士だって知ってるでしょう」
「おーこわいこわい。モンドくんは何でそんなにご機嫌ななめなのかね」
「博士!」
2004年1月1日木曜日
察しの悪いションヴォリ氏のこと
「百合ちゃん!」
「あ、主水くん……」
「ほほーい、モンドくんでないか?どうした?マリーと一緒じゃなかったか?」
「どうしてって。博士こそ、どうして百合ちゃんと一緒にいるんですか」
「リリィか?久しぶりに会ったらかわいくなってたから声を掛けた」
「そんな……あー、もう!」
改めて百合ちゃんの姿を見た主水くん、そそくさと出ていってしまった。
「ん?なんで怒ってるんだモンドくんは」
「あ、主水くん……」
「ほほーい、モンドくんでないか?どうした?マリーと一緒じゃなかったか?」
「どうしてって。博士こそ、どうして百合ちゃんと一緒にいるんですか」
「リリィか?久しぶりに会ったらかわいくなってたから声を掛けた」
「そんな……あー、もう!」
改めて百合ちゃんの姿を見た主水くん、そそくさと出ていってしまった。
「ん?なんで怒ってるんだモンドくんは」
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