ションヴォリ氏ははしゃいだ。
「昼間のように明るいですな。あの明るい棒がこの街に何本あるのか是非とも数えたいものだ」
などと言いながら部屋の中をウロウロしている。
「客人だ。ジャック・フロスト」
阿礼は大きな箱に向かって言った。
「アレック、誰かと一緒に住んでいるのですか?」
主水くんが近づくと大きな箱の中には雪だるまがいた。
「hello ご機嫌いかが?ジャックはアレックの同居人だよ」
「……ハイ、ジャック。お邪魔してます。ところでキミはどうして箱の中にいるのですか?」
「ジャックは冷蔵庫の中にいないと溶けてしまうのさ」
「れいぞこってなに?あんちゃん」
「……あんちゃんにもわからない」
2003年12月9日火曜日
2003年12月8日月曜日
狭い箱の中で後悔している主水くんのこと
「こちらへ」
阿礼に続き一行は白い光があふれる背の高い建物の一つに入った。
建物の中に入るとまたすぐに扉があった。そのような造りの建物は長く生きてきたションヴォリ氏でも初めてだった。
阿礼が何やら丸い物に触れると扉が音もなく開き、中に入る。中は狭い。四人でいっぱいの広さである。
「12階に小生の住まいがござる」
と言って「12」と書かれているところを阿礼が触れた。
「え?そんなに高いところに?」
主水くんは少し後悔していた。阿礼がこんな遠くて不思議な街に住んでいるとは思ってもみなかった。
身体がスゥとする。耳もおかしな感じだ。
緊張している主水くんのに対し、ションヴォリ氏は好奇心旺盛である。
「これは動いておるのですな?なんという乗り物で?
エレキベイター。はー。ここを触ると? ふむふむ。なるほど」
阿礼は阿礼でションヴォリ氏の疑問にいつもの調子で答えている。
「エレキベイターはデラックス百科事典の386頁に……」
チンと音がして、 扉が開いた。
「到着いたした」
「どこに?」
「小生の住まい」
阿礼に続き一行は白い光があふれる背の高い建物の一つに入った。
建物の中に入るとまたすぐに扉があった。そのような造りの建物は長く生きてきたションヴォリ氏でも初めてだった。
阿礼が何やら丸い物に触れると扉が音もなく開き、中に入る。中は狭い。四人でいっぱいの広さである。
「12階に小生の住まいがござる」
と言って「12」と書かれているところを阿礼が触れた。
「え?そんなに高いところに?」
主水くんは少し後悔していた。阿礼がこんな遠くて不思議な街に住んでいるとは思ってもみなかった。
身体がスゥとする。耳もおかしな感じだ。
緊張している主水くんのに対し、ションヴォリ氏は好奇心旺盛である。
「これは動いておるのですな?なんという乗り物で?
エレキベイター。はー。ここを触ると? ふむふむ。なるほど」
阿礼は阿礼でションヴォリ氏の疑問にいつもの調子で答えている。
「エレキベイターはデラックス百科事典の386頁に……」
チンと音がして、 扉が開いた。
「到着いたした」
「どこに?」
「小生の住まい」
2003年12月6日土曜日
思いがけなく遠かった阿礼の住む街のこと
立ち上がった阿礼は主水くんが見上げるほど大きかった。
掃部くんは彼の腰までしかない。
「では参ろう」
阿礼はゆっくり歩きだした。
阿礼の家は思いがけなく遠かった。
ションヴォリ氏の家とは逆の方角で、主水くんは初めて踏み入る土地だ。
すっかり日が暮れ、掃部くんは主水くんに背負われて寝てしまった。
やがて隣街に到着した。
ションヴォリ氏一行にとっては珍しい光景が広がっている。
夜空の下は白く輝いていた。あまりの明るさに掃部くんも目を覚ました。
背の高い建物の窓がひとつひとつ青白く光っている。
暖かい揺らめく明かりはどこにも見られない。
「アレック、ずいぶん遠くに住んでいたのですね」
阿礼はニヤッとした。
掃部くんは彼の腰までしかない。
「では参ろう」
阿礼はゆっくり歩きだした。
阿礼の家は思いがけなく遠かった。
ションヴォリ氏の家とは逆の方角で、主水くんは初めて踏み入る土地だ。
すっかり日が暮れ、掃部くんは主水くんに背負われて寝てしまった。
やがて隣街に到着した。
ションヴォリ氏一行にとっては珍しい光景が広がっている。
夜空の下は白く輝いていた。あまりの明るさに掃部くんも目を覚ました。
背の高い建物の窓がひとつひとつ青白く光っている。
暖かい揺らめく明かりはどこにも見られない。
「アレック、ずいぶん遠くに住んでいたのですね」
阿礼はニヤッとした。
2003年12月4日木曜日
萎縮してしまった掃部くんのこと
「アレック!」
主水くんが大きな声を出し、掃部くんはビクッとした。
阿礼は聞こえるのか聞こえないのか、つぶやき続けている。
「やはりウルトラデラックス百科事典でなければ……」
「はぐらかさないで、アレック。ぼくたちはアレックともっと仲良くなりたいのです」
主水くんは一呼吸置いて言った。
「知りたいのはあなたのことです」
「……各々方は、小生の住まいを知りたいと、申すのか」
ようやく阿礼は顔を上げた。
「さようでござりまする」
ションヴォリ氏が阿礼の口ぶりを真似て答えたので
主水くんはちょっと笑った。
しかし、主水くんにしがみつく掃部くんの手の力はますます強くなった。
「では案内いたそう、小生の住まいへ」
主水くんが大きな声を出し、掃部くんはビクッとした。
阿礼は聞こえるのか聞こえないのか、つぶやき続けている。
「やはりウルトラデラックス百科事典でなければ……」
「はぐらかさないで、アレック。ぼくたちはアレックともっと仲良くなりたいのです」
主水くんは一呼吸置いて言った。
「知りたいのはあなたのことです」
「……各々方は、小生の住まいを知りたいと、申すのか」
ようやく阿礼は顔を上げた。
「さようでござりまする」
ションヴォリ氏が阿礼の口ぶりを真似て答えたので
主水くんはちょっと笑った。
しかし、主水くんにしがみつく掃部くんの手の力はますます強くなった。
「では案内いたそう、小生の住まいへ」
2003年12月3日水曜日
ションヴォリ氏と主水くんが本当に知りたかったこと
「ありがとう、アレック。もう一つ質問してもいいですか?」
主水くんはまっすぐ阿礼の目を見て言った。
主水くんとションヴォリ氏が、本当に聞きたかったのはルーシーのことではなかった。
「よかろう。小生は各々方に知識を分け与えることに惜しみはない」
今度はションヴォリ氏が口を開く。
「アレック、あなたの家を教えて下さい」
阿礼の顔色が変わるのを見て掃部くんは緊張した。
主水くんの陰に隠れ服の裾を握り締める。
「それはデラックス百科事典には記載されていない。やはりウルトラデラックス百科事典を購入せねば……」
主水くんはまっすぐ阿礼の目を見て言った。
主水くんとションヴォリ氏が、本当に聞きたかったのはルーシーのことではなかった。
「よかろう。小生は各々方に知識を分け与えることに惜しみはない」
今度はションヴォリ氏が口を開く。
「アレック、あなたの家を教えて下さい」
阿礼の顔色が変わるのを見て掃部くんは緊張した。
主水くんの陰に隠れ服の裾を握り締める。
「それはデラックス百科事典には記載されていない。やはりウルトラデラックス百科事典を購入せねば……」
2003年12月2日火曜日
ルーシーのこと
そして阿礼は声色を変えて一息に言う。
「カウンセラールーシーはマシュマロパイが大好物、黄色いセロハンチューリップの花畑で踊る。ある朝、ルーシーは次の言葉を遺しオレンジの空へ飛び立った。
{あたしの助言は必ずあたる。100%の保証付き。}
この偉大なるルーシーの伝説はジェームズ・マクドナルドによって歌い継がれていくであろう」
三秒ほど間があって阿礼は帰ってくる。
「以上、デラックス百科事典に拠る」
「カウンセラールーシーはマシュマロパイが大好物、黄色いセロハンチューリップの花畑で踊る。ある朝、ルーシーは次の言葉を遺しオレンジの空へ飛び立った。
{あたしの助言は必ずあたる。100%の保証付き。}
この偉大なるルーシーの伝説はジェームズ・マクドナルドによって歌い継がれていくであろう」
三秒ほど間があって阿礼は帰ってくる。
「以上、デラックス百科事典に拠る」
2003年12月1日月曜日
冷えた椅子
林の中で見つけた小さな木製の椅子を、その足で近所の年寄りに見せることにしたのはなぜなのか、自分でもよくわからない。
「あぁ、もうこの椅子は死にかかっているよ。」
「どうしてわかるのですか?」
「ほら、ここを触ってみなさい」
私は塗装がはげ、泥がこびり付き、苔まで生えかかった座面に手をあてた。
「痛い」
「そうだろう、冷えきっているから痛いんだ。おまえさん、なぜこれを拾ってきた。
どうせならもっと良い椅子を拾えばいいものを」
「なぜって……」
「これが椅子だとよくわかったな」
そう言われてみると目の前にあるのは、椅子にはとても見えない朽ち果てた代物だった。
それでも拾わずにいられなかった。無我夢中で絡んだ雑草から引っ張りだし、積もった泥を落としてここへ持ってきたのだ。
私は涙を堪え、声を絞り出した。
「これは、ぼくの椅子だ。 ぼくの椅子なんだ。やっと見つけたんだ。」
「そうだ、よく言った……大事になさい。」
********************
500文字の心臓 第33回タイトル競作投稿作
△1×1
「あぁ、もうこの椅子は死にかかっているよ。」
「どうしてわかるのですか?」
「ほら、ここを触ってみなさい」
私は塗装がはげ、泥がこびり付き、苔まで生えかかった座面に手をあてた。
「痛い」
「そうだろう、冷えきっているから痛いんだ。おまえさん、なぜこれを拾ってきた。
どうせならもっと良い椅子を拾えばいいものを」
「なぜって……」
「これが椅子だとよくわかったな」
そう言われてみると目の前にあるのは、椅子にはとても見えない朽ち果てた代物だった。
それでも拾わずにいられなかった。無我夢中で絡んだ雑草から引っ張りだし、積もった泥を落としてここへ持ってきたのだ。
私は涙を堪え、声を絞り出した。
「これは、ぼくの椅子だ。 ぼくの椅子なんだ。やっと見つけたんだ。」
「そうだ、よく言った……大事になさい。」
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500文字の心臓 第33回タイトル競作投稿作
△1×1
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