2002年10月22日火曜日

投石事件

あんまり石が降るので傘を差した。
しばらく歩くと兎が石を投げているのにでくわした。
「原因はキミか。あぶないじゃないか。」
「そんなことないよ。ただのキャッチボールだ。」
「キャッチボール?一人で?石で??なんてこった!」
ガッチャーン!
「コラァ!」

兎の姿は既になく、
雨でもないのに傘を差した背広姿の男が説教されたのだった。
ナンテコッタ。

星をひろった話

見慣れない物をひろったので人に見せてまわった。
「きれいだね」とA が言った。
Bは「盗みはよくない。」と言い
「高く買ってやれるぞ。悪くないだろ。」とCは言った。
「これ、なんだと思う?」と聞くと
皆「わからない」と言って去った。
「ちょっと見せて御覧なさい」
そう言ってきた男はかなり妖しかった。
「星だね」
星と呼ばれた物は、その言葉を待っていたかのように静かに光り、そして消えた。

2002年10月21日月曜日

月から出た人

ときどき独りで飲みに来る男、に気付いたのは『スターダスト』に通うようになって数か月経ってからのことだった。
静かな光を纏った、と言いたくなるような独特な雰囲気があり、しばしば見惚れてしまうのだった。
「いつもお独りですね?」
そう声を掛けると意外にも人懐こい笑顔が返ってきた。
我々は店を出て、秋の夜風にあたりながらゆっくりと歩いた。
「お住まいはどちらで?」
そう尋ねると男はゆっくりと十六夜の空を指差した。

2002年10月7日月曜日

妊婦

「あら奥さん、お腹の赤ちゃん元気そうでなによりね」
「ありがとう。でもせわしなくてこまるのよ」
「手なら、まだいいじゃない。うちの子は口だったのよ。もう、一日中、喋り続けるものだから本当に困ったわ」
「それは堪らないわね。私はジャンケンだけだから、我慢しなくちゃ。そうそう、Sさんは5ヶ月ですって」
「あら、そろそろ出てくるころじゃない」
「そうなの。それでさっき電話して聞いてみたら、髪の毛が生えてきたって」
「まあ!珍しい。それは将来有望よ!」
「でも、大変らしいわ。伸び続ける毛を切ってはいけないんですって」
「でも長ければ長いほどいいんでしょう?」
「そう。膝まで伸びたら、天才らしいわ」

パウル・クレー≪偶像の園≫をモチーフに

2002年10月6日日曜日

ここがイタリア?

異国に来たのは初めてだ。
「なんだか違う世界に迷い込んだようだ」
「SF小説みたいなこと言うんだな。飛行機で半日、海を渡っただけじゃないか。」
連れは町並みを眺めながら簡単に片付けてくれたので、それ以上は何も言いたくない。
しかし、この不安は本物だと確信できる。
空港を出てから、我々の声と靴音以外何の音も聞いていないのだから。

パウル・クレー≪イタリアの都市≫をモチーフに

2002年10月3日木曜日

自画像

空に映ったボクの姿。
それをカンバスにスケッチする。
ある時は太陽とともに、またある時は月とともに。
でも一番多いのは雲なんだよね。

パウル・クレー≪月は昇り、陽は沈む≫をモチーフ

2002年10月1日火曜日

ある時間旅行者の最期

《極秘調査報告》
20XX年10月1日22時ごろ都内某所交差点での
不可解な事故についての調査結果。
彼が轢いた男と彼を轢いた男は同一人物であったとみられる。
以上。

パウル・クレー≪ふたり分叫ぶ男≫をモチーフに