2002年7月13日土曜日

コーヒーとミルク

看板に「珈琲」の文字。
黒地に白字。
それはなぜ?
コーヒーとミルク。
黒人と白人。
夜と昼。
悪と善。

2002年7月9日火曜日

無題

目覚めると、周りには何もなかった。
俺は裸で布団もなかった。窓の外は霧で何も見えない。
きのうまでの記憶もない。
目の前には、ただ一杯のコーヒーがあるだけだった。
コーヒーは湯気がたっている。そうだ、俺はまだ生きている。

2002年7月7日日曜日

セピア色のタイムマシン

十数年ぶりに一冊の文庫本を取り出した。
すっかり茶けた頁から、古い文庫本の匂いの中に
微かなコーヒーの香りを見つけた。
「ああ、〔La Voie lactee〕だ・・・」
久しぶりに行ってみようか。
あの頃と同じ時刻に、同じ本を持って。
そして、窓際のあの席で待つのだ。

2002年7月6日土曜日

コーヒーゼリー

ママの作ったコーヒーゼリーはいつも僕には苦かった。
だから、僕はいつもたっぷりホイップクリームをのっけて食べた。
ママはそれを見て
「ごめんね、もっと甘くすればよかったね。」
となぜだかちょっぴり悲しそうな声で言うんだ。
ママは甘いのが好きじゃなかったんだね。
コーヒーゼリーは、唯一ママが作ってくれるお菓子だった。

僕はもう大人になって、ママはいなくなって、世界は一度終わりをみた。
嗚呼、最後にコーヒーゼリーを食べたのはいつだろうか?

2002年7月5日金曜日

配達ボーイと看板ガール

私は、毎日この喫茶店に通っている。
もう、40年になる。
ここでは、娘が一人、給仕し、LPを入れ替え、レジを打っている。
床やテーブルを磨く姿を、見かけたこともあった。
とにかく、よく働く。
そして、彼女は十分に人目に付くくらいの容姿は備えている。
加えて喫茶店の看板娘には、「やさしい笑顔」が必要らしい。
私は若干年上の彼女に「憧れ」ている。
そのような感情を持ってはいけないと言われているがどうしようもない。
私は、40年間変わらぬ姿で、毎日この店に品物を届けている。
彼女は今日も、同じ笑顔で「ごくろうさま」と言うだろう。
あと60年は言うだろう。
私たちのタイプは100年の使用期間が定められている。

2002年7月2日火曜日

珈琲はじめて物語

その人は、いつも白いコーヒーカップを覗きこんでいた。
客が飲み終えたカップを洗う前にひとつづつ、滑稽なくらい真剣な眼差しで。
客が少ない時を見計らって尋ねてみた。
「カップを読んでいるんです」
「占いの類ですか」
「まぁ、そんなようなものです」
「何がわかるんですか」
「お客さんは、銭湯のコーヒー牛乳。カップ達は飲んだ人とコーヒーの出会いがわかるのです。私はそれを読むだけ。いいカップでしょう」
そう言って髭がほころんだ。

2002年7月1日月曜日

砂漠珈琲

アフリカに暮らす友人から小包みが届いた。

「お元気ですか。砂漠の砂を送ります。この砂をフィルターに入れてからコーヒーを淹れてみてください。どんな味がするかはお楽しみ。わざわざ街でチャックのついた袋を買ったんだ。くれぐれも湿気には注意してくれよ。日本の湿度は、砂には大敵だから。それからコーヒーの感想をぜひ聞かせてください。それでは」

すぐに感想をエアメールで送ったのは、言うまでもない。