2005年8月1日月曜日

お利口さん

女は紅緋の着物を着ていた。唇も髪飾りも爪も、同じ色をしていた。
一目で「嫌だ」と思った。「こっちに来るな」と思った。
でも、女は近づいてきた。音もなく寄ってきて、私の頭を撫でる。
「お利口さんね」
声も紅緋色。
「お利口さんね……お利口さんね」
女は、そう言って私の頭を撫で続けた。
「お利口さんね」
私は全然いい子じゃないのに。お母さんにもお父さんにも「お利口さん」なんて言われたことがないもの。
私は心の中で呟いた。
「いいえ、お利口さんよ……とてもお利口さん」
女は言った。
撫でられている頭が温かくなってきた。
だんだん眠くなってくる。

【紅緋 C0M90Y85K0】