2005年6月1日水曜日

黒い箱

広場に巨大な黒い箱が現れたのは、ほんの五分前のことである。
広場は騒然となり、人々はみな逃げていった。
黒い箱は完全な立方体で、表面は滑らかである。
「これ、何かな?爆弾?」
「さあ。私にもわからない」
「こわいものだよ、きっと。食べられるかもしれない」
「こわいなら、逃げればいい」
しかし、月と少女は逃げることはせず、箱の周りを歩いた。
三十六週しても箱は何も変化しなかった。
夜より深い黒い箱である。周囲を歩く少女が見上げると、迫りくる闇の壁のごとき様相だ。
「これ、何かな?」
「さあ」
「恐いものじゃないのかな」
「わからない」
十八回目の問答をした時、箱はズズズと音を立て縮み始めた。
見る見るうちに小さくなって、サイコロくらいになった。
「小さくなっちゃった」
少女は、黒い箱を踏み潰した。