2009年8月21日金曜日

夢 第六夜

新しい縮毛矯正が開発されて、友人は早速試した。さらさらな髪にご満悦だ。
私は彼女に一本の白髪を見つける。抜いて欲しいというのでそれを辿ると、根元に向かって太くなっていく。頭皮に至ると親指くらいの太さがあったが、ちょっと引っ張るとあっけなく抜けた。大きな毛穴を覗き込む。なにやら蠢くものが見える。右手に握った白髪がぶるんと震えた。

(163字)

2009年8月20日木曜日

夢 第五夜

ハイテクノロジーな文房具セットを手に入れる。
ロックを外せば小さな机があらわれ、各種テープ類が整然と並び、鋏は3種類、カッターや刃物は4種類、糊や接着材は数えられないほど。どれもきっちり定位置に収まっている。糊もテープはいくら使っても尽きることがない。
真っ白でつるりとした機能的なミニデスクは、何がどこにあるのか探すのが大変だ。そしてあまりにも機能的過ぎることにデスクが自己陶酔しているらしい。消しゴムのカス一つで、警告音が鳴り響く。

(216字)

2009年8月18日火曜日

夢 第四夜

口角炎が治らない。一言喋ろうとする度に口の端が切れて血が滲み出る。
ハンカチ大のガーゼを折り畳み唇に押し当てる。何度も血液を吸ったガーゼを、洗い、また使う。
斑な赤茶色の染みを作ったガーゼを使い続ける。
そのうち口を開かなくとも、ふいに血がじわりと溢れ出るようになる。洗い過ぎて硬くなりつつあるガーゼが傷に障る。このガーゼを、どこまで汚すことができるかしらと頭のどこかで考えている。

(188字)

2009年8月17日月曜日

夢 第三夜

部屋の床一杯に散乱した貝殻とビー玉を分類している。
家中の籠や笊を使って、巻貝、二枚貝、タカラ貝、青いビー玉、赤いビー玉、緑のビー玉……と選り分ける。
貝殻もビー玉も、割れているものが相当ある。割れているのは選り分けない。なかなか床の貝殻とビー玉は減らない。けれども飽きることも焦ることもなく、私はひとつづつ拾っては検分し、籠に入れていく。ただ、籠や笊が足らないので少し困っている。もうこれ以上入れ物になりそうなものは家にない。
部屋の片隅で、年若い男が私の様子を眺めている。膝を抱えて蹲り、無表情でこちらを見ている。

(256字)

2009年8月14日金曜日

夢 第二夜

生前葬に呼ばれる。
食事を始めて暫くすると、ストレッチャーに乗った旧い友人が現れた。治療法の確立されていない難病に冒され、余命いくばくもなくなり、生前葬を決めたらしい。
十数年振りに見る彼はげっそりとやつれ、髪は真っ白になっていた。あちこちにチューブや包帯を付け、痛むのか頻りに左の太股を擦っていた。
はち切れんばかりの笑顔の彼は、そこにはなかった。私は彼にずいぶんと世話になった。逞しい彼は、少々お節介だったけれども、確かに私の騎士だった。
感謝を伝えたかった。病との闘いを労いたかった。しかし虚ろな目の彼に掛ける言葉が見つからない。いくら咀嚼しても唾液が出ないまま、出された食事をもそもそと臙下し続ける。

(300字)

2009年8月12日水曜日

夢 第一夜

腹痛に泣いている男の腹をさすっている。
男は痩せているのに、その腹はやわらかな脂肪がついている。
男の腹痛が落ち着いても私は彼の腹を撫で続け、心地よくてそのままウトウトと眠ってしまう。

目覚めてから、この男は現実に具合が悪かったのではないかという気がして仕方がないのだが、確かめようがない。男が誰だかわからないのだから。

(157字)

2009年8月11日火曜日

銀河ステーション

別れを惜しむ恋人たちを尻目に、私は仁王立ちで汽車を待っている。
ステーションには次々と汽車がやってくるが、私の乗るべき汽車はずいぶん遅れているらしい。数十億光年の長距離汽車だから仕方がないのかもしれない。
しかし私は待ちくたびれた。足がホームに張りついたように動かない。
馴染みの駅員が私の前に立ち、一口だけ駅弁を食わせてくれる。
残りを頬張りながら、駅員は改札に戻って切符切りを始める。鋏の音につられて、私の心の臓は大儀そうに鼓動を続ける。
私は一体なんという星を目指して汽車に乗ろうとしているのだろうか、ふと不安になる。さっきまで確固たる確信の下に汽車を待っていたはずなのに、よくわからなくなっている。今の私に切符を確かめる術はない。
煌めく星星の眺めと裏腹に、ホームの一寸先は宇宙の闇。汽車など待たず、足が動くうちにホームの向こうへ歩きだせばよかったのかもしれない。ほんの三歩歩ければ。
また汽車が来る。
駅員が慌て走ってきて私をひょいと持ち上げ、車掌に渡す。死んでないだろね、トランクのほうが重たくなってら、と車掌が笑う。

(457字)