2010年10月18日月曜日

ポケットの中の月

お月さまが「明日の晩は、ポケットに入れてくれ」などというのだ。
明日は新月だから。
お月さまはそういうけれど、それならば街に来なければよいのに。
「理由を聞きましょう」
と言うと、お月さまはもじもじし始めた。
「逢いたい……いや、見たいものがあるのだ。どうしても、明日の晩でなければ」
次の晩、どういう仕業かわからないが、巧い事ズボンのポケットに収まったお月さまはモゾモゾと動くからくすぐったい。
「ちゃんと行きますから、おとなしくしていて下さい」
そう言いながら着いたのは、月下美人の花畑だった。いくつもの白く大きな芳しい花が、月のない夜に輝いている。
ポケットの中のお月さまも身を乗り出して輝く。外に出て大丈夫なのだろうか。思わずズボンのポケットを押さえる。月光が漏れないように。
深呼吸したら、あまりの芳香に気を失ったから、その後、お月さまがどうしたのか、わからない。