2009年8月6日木曜日

振動

携帯電話を金魚鉢に沈めた。
金魚は新しい侵入物を気にするふうもなく、変わらずに泳いでいる。
ふいに水中の携帯電話が振動する。金魚鉢の水は大袈裟なくらい波打ち、金魚は鉢から飛び出した。
フローリングの上で苦しむ三匹の金魚を尻目に、私は震える携帯を水中から掬いだす。
液晶画面に、あの人の名はない。真っ暗な画面のまま震え続ける携帯電話を胸に押し当てる。息絶えた金魚たちはもう異臭を放ちはじめた。

(191字)