2019年11月28日木曜日

罪と罰だけの話ではない

「この町に転移してからも、字は問題なく読めました。『ドンナモンジャ』の樹の名札を読んだのを覚えています。元いた町と、この町の文字が違うというわけではないと思います。カードの文字が変異した可能性、あると思います」
なるほど……と主治医とその息子は腕を組んだ。

「それでもやはり、名前を全く覚えていないというのは、よくない症状だ。少し危険だが、これはもう旅の罪と罰だけの話ではない。私が責任を持とう」
と主治医は言った。
「旅の人、文字、書いてみましょう。あなたの、名前を」

紙とペンが差し出された。
文字を書くこと。名前を書くこと。それは罪である手紙に直結する行為だ。

消えず見えずインクの旅の者に、名前を訊いてはいけない。
その者に、名前を書かせようとすることは、より危険であることは、主治医の顔を見れば明らかだ。