2013年3月20日水曜日

六色沼に沈む


六色の沼は規則正しく並んでいる。

沼に小石を投げると、それぞれ沈む速度が違うと言われているが、試したことがあるという人はいない。

なぜなら六色沼にはそれぞれ主が住んでいて、石など投げれば主が怒るに決っているからだ。

「主様、主様」

子供が呼びかけると「なんだい?」とそれぞれの沼から主が現れる。

主たちの姿形は、おじいさんのようにもおばあさんのようにも蛙のようにも見える。

「沼に沈む速さが違うという話は、本当ですか。わたしは試してみたいのです。綺麗な石を六ツ持って参りました。この石は主様に差し上げますから、どうか石を投げさせて下さい」

主たちは沼から出てきて子供の手を覗き込んだ。小さな艷やかな石を、主たちは大層気に入った。

「よいよい、投げてみろ。けれど、石の色がそれぞれ違うな。どの石をどの沼に投げるか決めねばならない」

沼の主は、なかなか欲張りなのだった。

そうして主たちが話し合っている間、主が不在になった沼はすっかり淀んでしまい、主たちはどの沼が己の沼かがわからなくなってしまった。