2012年9月20日木曜日

鏡を割る

玄能で鏡を叩き割る。彼女の毎朝の日課だ。


力加減は慣れたもので、罅は入るが飛び散りはしない。


彼女はその割れた鏡に向き合い、念入りに化粧をする。


 


完璧な容姿である彼女の元には、多くの人形師が訪れる。


彼女と瓜二つの人形は、文字通り世界中に居るはずだ。


彼女の名前を冠した一連の人形に、多くの人々が夢中なのだ。


「忌々しい」と、一度だけ彼女は人形を評して言った。


人形を壊すことが出来ない代わりに鏡の中の己の顔を割るのだろうと、私は推測しているが、本当の所はわからない。


 


私は彼女が家を出た後で、割れた鏡を片づけ、真新しい手鏡を伏せて置いておく。


まさか鏡も翌朝には割られる定めとは思ってもみないだろう。鏡とはいえ、気の毒なことだ。


私は鏡から破片を一つ摘み上げ、唇へ寄せる。血がにじむのも構わずに。


そして、部屋に一体だけ隠し持っている彼女と同じ顔の人形にくちづけるのだ。



今日は、買ってきたばかりの鏡を諸事情で割ってしまったので、こんな話になりました。