2009年4月27日月曜日

宝物殿

深い森の中、かつて此処に小さいながらも裕福な王国があったことを知る者は誰もない。
ただ湖だけが、その記憶を持つ。湖底に沈む財宝を守るために。
清らかな湧水は、金属が錆びることを許さず、宝石に泥が積もることを拒否する。
湖を覗けば誰しも、色鮮やかなまばゆい光を見ることができるだろう。だが、それを目にする者は、過去にも未来にも存在しない。
見る者が顕れなくとも、財宝はひたすらに輝き続ける。深い森の奥に佇む、この湖が枯れ果てぬ限り。

(211字)