2008年7月29日火曜日

哀しい食欲

ひもじいと言って、娘は泣く。毎日泣く。
飯はある。腹が減ったら食べればよい。ひもじくて泣く理由はない。
よくよく聞いてみると、ひもじいと、誰かに見放されて、棄て置かれた気分になるのだという。独りぼっちはもう嫌だから、蟻を食べるのもたくさんだから、泣かずにはいられないと、娘は幼い語彙を繋いで切れ切れに語った。
そういえば、この娘を孕むちょっと前に、道端で蟻を食らう少年を見た。おっかさん、と呼び止められて、逃げた。走って走って、少年が見えなくなっても、まだ走った。
蟻は酸っぱい。足や触角が舌に刺さる。食べても食べても腹くちくならなくて、泣きながらそれでも食べた。
また娘がひもじいと言って泣いている。抱き上げて、その涙を指で掬い舐める。酸っぱかった。