2006年7月31日月曜日

評論家だった死体

細かい刺繍が施された布が友人だった死体の顔に掛けてある。
「白い布じゃないんだな」
と言うと死体の妻は頷いた。
「死んでからも弁じ続けてたの。どうにか黙らせようと、口に綿を入れたり、首を絞めたりしたんだけど、この方法がいいと勧められて」
そっと刺繍布をめくると、死体の口から言葉が飛び出して来た。
もはやそれは友の声ではなく、体内に溜まっていた思考の残響だった。
まだまだ溢れてくる言葉を抑えつけるように布を掛けた。


*繍*