2006年6月7日水曜日

口封じ

「私はヘタマイト。異星から来た」
とヘマタイトは言った。地球上の鉱物のくせに何をおっしゃる。
「ヘマタ・イトはヘ・マタイト系第三惑星で、ヘマタ・イトを構成するのがヘマタイ・ト……」
ヘマタイトは私の手に弄ばれながらも、延々と喋っている。
黒光りしてすべすべしたヘマタイトは、重みがあり手の中で転がすのが、楽しい。
「神のヘマタイトから数えて私は2396代目、正真正銘の由緒正しいヘマタイトの血が……」
血なんか流れてないだろう、鉱物なんだから。
私はおしゃべりなヘマタイトに飽きてきた。
赤い油性ペンでヘマタイトに唇を描いた。そこに口紅を塗ってやった。
おかげで、鉱物とは思えないおしゃべりなヘマタイトはすっかり黙ったけれど赤い唇を輝かせるヘマタイトはやっぱり鉱物らしくない。