2002年7月14日日曜日

宝物

ヒョウ太さんは、毎日、一杯のコーヒーを時間をかけて飲んでいました。
いいえ、一杯のコーヒーが一日中、机の上にあるのです。
朝は湯気が立っていたコーヒーも、お昼になるころには
冷たくなっています。でも、夕方にはきちんと飲み終えているのです。
アヤコさんが聞きました。
「コーヒー、好きなの?嫌いなの?」
冷えたコーヒーなんて、とても不味そうに見えるのです。
ヒョウ太さんは言いました。
「好きだからじっくりと味わうのさ。時間をかければ気が付かないことが見えてくる。」
ヒョウ太さんは、カップを覗き込みながら笑いました。
何が見えるのか、とても気になったアヤコさんは翌日からヒョウ太さんの真似をするようになりました。
季節が変わるころ、
やっとヒョウ太さんの言っていたことがわかりました。
それはとてもかわいらしくて素敵だった。
と、おばあさんになったアヤコさんは
おじいさんになったヒョウ太さんに語るのでした。