2015年1月7日水曜日

一月七日 ドア

34ミリ。このドアの厚さである。
ドアの中には(ドアの向こう、ではない。中である)、ちょっとした化物が住んでいることを、今日発見した。
このドアは、ずいぶん前からノブが壊れていた。今日、私はドアノブ交換を決行したのだ。
そして、その際にその小さな化物と目が合ってしまった。
ドアをノックするときは要注意だ。ドアの向こうの人が返事をしなければ、ドアの中の化物が返事をする。
つまり、このドアは必ず返事をする。
トントントン、誰かいますか。


2015年1月4日日曜日

十二月二十八日 鳥居

続く鳥居の向こうに、お稲荷さんが見えている。
歩いても歩いてもお稲荷さんに辿り着かない。
「キツネに化かされたかしらん」
とつぶやくと、「ウサギの仕業だよ」とお稲荷さんから声がした。
ウサギは毛を逆立てて、私の後ろで跳ねている。


2015年1月1日木曜日

人工衛星の街角

 その人工衛星は、三百年前に役目を終え、今はただ、律儀に軌道を描いているだけ。
地球の人々はそう思っていた。
 実際、百年前まではそうだったのだ。だが、人工衛星だって馬鹿ではない。作られた当時の最新技術が搭載されていたわけだから。
 つまり、老いた人工衛星は退屈していたのだ。少し遊びたくなったのだ。
 人工衛星は、よく見える目を持っていた。地球を何百年も観察し続けていた。それ以外にすることはなかった。だから、地球上の「街」という「街」をよく知っていた。己にも
「街」を作ろうと考えた。
 「街」には「道」があり、さまざまな「建物」があった。人工衛星は「教会」がお気に入りだった。鐘があるから。それから「回転木馬」も好きだったそれからそれから。
 石畳の道を作った。広場も作った。もちろん回転木馬をそこに配する。大きな教会には、ステンドグラスと鐘。
 百年の間に、少しずつ、少しずつ、街を作った。しかし、何かが足りない。何かが足りない。
 人工衛星は考えた。一生懸命考え、地球を観察し直したが、人工衛星が思い描いていた街は三百年前にはもう朽ち始めていた街だったのだ。いくら観察しても、そんな街は、もう地球のどこにも残っていない。
 思い出すのに四十八年掛かった。そうしてやっとわかったのだ。
「街灯」だ。
 人工衛星は自分の街に街灯を立てた。そして、「ぽっ」「ぽっ」とひとつひとつ明かりを灯していった。
 地球の人々が夜空を見上げる。忘れられた人工衛星が輝いている。

架空非行 第6号

2014年12月22日月曜日

十二月二十二日 犬

犬が自主的に眼科へ入っていった。まったく迷いなく、自動ドアが開き、犬は中へ入っていった。
検眼でもするのだろうか。犬の視力検査というのは、どうやるのだろう。
「いや、アレはサングラスを作りに行ったのだ」とウサギは豪語した。
「クリスマスのイルミネーションから目を守るためだ」というのがウサギの解説。
もっともなような、そうではないような。
犬が眼科から出てくるまで待っていようかと思ったけれど、それはやめた。


2014年12月19日金曜日

十二月十九日 古墳

通りがかった家の二階のバルコニーに、武人と馬の大きな埴輪が置いてあった。
「家の人が飾ったのかな」と言うと、「そうではない、ここはかつて古墳だったのだ」とウサギが低い声でつぶやいた。


2014年12月18日木曜日

十二月十八日 ケツノホ

座布団をお日様に当てると、ケツノホがふわふわと飛び出していく。
今日は風が強かったから、ケツノホがよく出た。
ウサギはケツノホが好きで、一緒に飛んでいきそうになるので、ベランダに縛り付けておかなくてはならなかった。
「ウサギ風邪引くぞ」と声を掛けても、上の空だ。仕方がない。


2014年12月10日水曜日

十二月十日 職人

右手に刷毛を、左手に竹棒を操る。
「職人になった気分でしょう?」とおだてられ、良い気分になった。
すると、調子に乗るなと言わんばかりに、刷毛の毛がズズズと伸びた。
腰を抜かした。