2020年8月14日金曜日

手紙を書こう

通信の罰則がに軽微になったとはいえ、立派な身形の人のような「元旅人」は旅人の監視役を命じられたという。ただ、立派な身形の人は模範的な旅人だったとして、引き受ける旅人を選ぶことが出来たのだと、静かに語った。

「ありがとうございます。お礼を言うのも奇妙なことですが……」
立派な身形の人は微笑むだけで言葉では答えなかったが、続けてこう言った。
「万年筆を返してもらいました。とても大切なものだったのです。二本ありますから一つ差し上げましょう。手紙を書くでしょう? 直ぐにでも」

そうだ。太ももにメモした若者の名前が消えぬうちに、今年の手紙を。

来年は、美しい人に。故郷に戻った美しい人の声を聴くにはどうしたらいいだろう。本当の声は挽肉を捏ねるような声ではないはずだから。

そして次の年は、オニサルビアの君に。老ゼルコバを偲んで、手紙を書こう。

手紙を書こう。
(完)