2020年1月7日火曜日

最後の晩餐をしよう

「消えず見えずインクの旅券を持つ者あり! この者を然るべき儀式で送る者はおらぬか!」
久しぶりに聞く青い鳥は以前にも増して、威厳があった。
主治医も、その息子も、その有無を言わさぬ態度に圧倒されているように見えた。

「どうやら、お別れの時が近づいてきたようです」
青い鳥の堂々とした態度とは対照的に、小声になってしまった。
よくしてくれた家族に碌な礼もできず、名前も訊けず、自分の名前もわからないまま、ここを去らねばならぬのだ。
「転移させてくれる人に心当たりがあります」
と若者が言った。心なしか声が震えているような気がしたが、それについて何か言ったり考えたりすれば、たちまち涙が出てきそうなので、黙っていた。

「……明日、明日まで待ってもらえませんか。最後にもう一度家族で食事をしましょう」
そう言ってくれたのは、若者の父であるところの主治医である。彼は、青い鳥に懇願しているように見えた。