2012年10月3日水曜日

たびや

 足袋屋が何よりも大切にしているもの、それは上得意の足型。
 丁寧に作られた木型と帳面が対になっていて、帳面には客の名前と足の寸法、型を取った日付、それから足の特徴やら客の好みやらが事細かに書き込んである。
 私は足袋屋からその足型を預かって保管するという商いを営んでいる。足型が欠けたり、帳面が虫に食われたりしないよう、一組づつ特製の箪笥に仕舞ってある。すべての抽斗に鍵が掛けられていて、どれがどの鍵か判るのは、私だけだ。
 もう一つの大事な仕事は、この足型を旅に出すことである。
「足型といえども、足は足。歩かなくっちゃあ鈍っちまうよ」
 これは死んだ爺さんからよく聞かされた言葉だ。
 足型の持ち主であるお客の健脚を祈るまじないと、行き先と帰り時間を紙に書き、そっと抽斗の中に入れる。鍵は開けておかなくともよい。どこからどうやって足型が旅に出るのかは、私もわからない。
 帰ってきた足型は時々マメを拵えてくるやつがあるから、油を染み込ませた布で磨いてやる。


 


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落語超短編投稿作 タカスギシンタロ賞受賞