2010年12月29日水曜日

黒猫を射ち落とした話

「星の欠片をピストルに込めてみな。美味いものができるぞ。こうして話しているだけで、涎が出てくるようだ」
喫茶店で隣になった老人が嗄声で囁いた。ポケットの中には、拾ったばかりの星が入っている。金平糖型で、握りこぶしくらいの星が。
「……何を撃つといいでしょうね。一番おいしいのは」
「そりゃあ、決まっているだろ、黒猫だよ」
早速、しっぽのない黒猫に逢ったけれども、そういえばピストルなんて持っていない。
代わりにパチンコで黒猫を射つことにした。
星も黒猫も嫌がるかと思えば、そうでもない。おとなしく射たれるのを待っている。
パチンコなんて子供の頃から下手だったから、四度目にしてようやく黒猫に命中した。
パシッと黒猫に星の欠片があたり、黒猫はふにゃりと塀から落ち、星の欠片は失速して転がった。黒猫は鼾を三回かいた後、去っていった。
星はもう輝かない。口に放り込んだ。美味い。
ただ、それを言葉にしたら、黒猫に当たった星の味、としか言いようがない。