2009年12月26日土曜日

謎ワイン

 酒屋を営むネゴチオ氏は、或る朝、見慣れぬ薄汚い木箱が店先に置かれているのを発見した。
 木箱の中には、ワインが一ダース。取り出してみるが、どこにもラベルは貼られていない。
 まさか毒入りということもなかろうと、ネゴチオ氏は一本開けると、香りを確かめ口へ含み、直後にそのワインを店で売り出すことに決めた。値段をいくらにしようかと悩んだ末、店で一番安価なワインより更に少し安くした。
 ワインは「謎ワイン」と呼ばれ評判となり、大変によく売れた。売り切れる頃合いを見計らったように、店先に例の木箱が置かれるので、品薄になることもなかった。
 しかし、善良な商売人であるネゴチオ氏には、罪悪感があった。素性の知れないワインを店に出すことも、売上のすべてを己の懐に入れることも。
 ネゴチオ氏は、徹夜で店の前に立ち、木箱を運んでくる人を待つことにする。せめてお礼を言わなければ、気が済まない。
 しかし、ここで話は終わる。この話の目撃者であるネズミがネズミ獲りに掛かってしまったからだ。謎ワインはチーズによく合うだろうと思ったのが運の尽き。ネゴチオ氏がワインの謎を解くのを見届けるまで、我慢することができなかったのである。

(494字)
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500文字の心臓 第91回タイトル競作投稿作
○1 △1 ×1

ネゴチオってのは、イタリア語の「negozio」(店の意)から。
どっか大昔の、どっか架空の、いかがわしい町の話、という脳内設定。